個人事業主として仕事をしている場合、赤字になったら税金はどうなるか、ご存知ですか?「赤字ならば税金はかからないのでは」「税金がかからないのだから、確定申告をする必要もない」と考えている方も多いのではないかと思います。
そこで今回は、赤字になった個人事業主には税金がかかるのか、申告はどうすべきか、申告することによって得られるメリットなどについてご説明していきます。赤字になってしまった、もしかしたら赤字になるかもしれない、という個人事業主の方はぜひ参考にしてください。
そもそも個人事業主とは
個人事業主は、株式会社や合同会社などの法人を設立せずに事業を行っている個人のことを指します。税法上で分類されており、事業主を含め家族や従業員と一緒に仕事をしていても、法人格を持たなければ個人事業主となります。
>>個人事業主についてより詳しく知りたい方はこちらをご覧ください<<
個人事業主が支払う税金は何か
個人事業主が納めなければならない税金は、以下の4つです。
- 所得税
- 住民税
- 消費税
- 個人事業税
納める条件や計算方法などを知りたい方は「個人事業主の税金」の記事をご覧ください。
さて、この4つのうち、黒字であっても赤字であっても節税するべき税金は所得税です。この点について、詳しくご説明します。
個人事業主の節税にとって重要なこと2点
個人事業主が節税をする場合、どのようなことを意識する必要があるのでしょうか?重要なポイントは以下の2点です。
節税はお金を残すことを目的とすること
節税をする最大の目的は、手元にお金を残すことです。いかに節税をするかに注力してしまい、お金が残らない状態になっては意味がありません。
お金を残しながら節税をするためには、まずは青色申告をして、経費をきちんと算入しましょう。
経費とは、事業を行うために必要な費用のことです。経費として計上される代表的なものは、交通費、文房具やコピー用紙などの消耗品費、接待や贈答などの接待交際費、必要な情報を得るための本や新聞などの図書費などが挙げられます。
かかった経費を正確に記帳しておけば、その費用を所得額から引くことができるので、節税につながります。まずは、この部分をきちんとしておくことが大事です。
その上で、お金を払いますが所得控除の対象となるため節税に有効な方法があります。以下が、その代表的なものです。
- 個人型確定拠出年金(iDeCo:イデコ)…個人で運用する年金で、65歳以降に受け取れる。支払いは所得控除、受け取り時は公的年金等控除や退職所得控除が受けられる。
- 小規模企業共済…退職金として、積み立てた掛け金を受け取れる制度。所得控除が受けられる。
- 倒産防止共済(経営セーフティ共済)…取引先の倒産によって連鎖して倒産することを避けるための制度。全額経費計上できるが、戻ってきたときは収入扱い。
所得に余裕があれば、これらの制度をうまく活用して節税対策をするのも良いでしょう。
>>個人事業主の節税についてさらに詳しく知りたい方はこちら<<
いくら利益が出ているのかを常に把握すること
自分の事業がどれくらいの利益を出しているのか、それが把握できていないと、節税の目安もわかりません。利益に見合わない節税対策をしてしまい、手元にお金が残らなくなってしまった…ということになってしまいます。
売上高と経費を確認して1年間のおおよその利益を算出し、どれくらい節税すべきかを考えましょう。1年分を通して計算しなくても、事業を始めて3ヶ月経っているのだとしたら、その3ヶ月分を4倍すれば、1年分のおよその見通しを立てられます。その通りにいかない場合ももちろんあるでしょうが、目安を知るためには十分です。
確定申告の時期になってから慌てて節税しようと思ってもできることは限られてきます。
一年を通して計画を立てることが大切になってくるでしょう。
赤字のときは確定申告しなくていいは嘘?
確定申告は税金を納めるためのものだから、赤字ならしなくてもいいのではないか、と考える方もいるかもしれません。それは本当なのでしょうか?
そもそも確定申告はなぜ行わなくてはならないのか
個人事業主は、赤字の場合に確定申告をする義務はありません。そのため「赤字のときは確定申告をしなくてもいい」というのは嘘ではない、ということになります。
確定申告は、黒字だから税金を納めるためだけに行うものではありません。申告することによって、どのような事業を行ってどのくらいの所得を得ているのかを、公的機関に伝えるためのものでもあります。
つまり、確定申告をしないということは、自分がどうやって生計を立てている人なのかを公的に示すことができない、ということなのです。公的に示すものがないと、社会生活において不都合が生じる場面が出てくる可能性もあります。
確定申告をしないとどうなるか
確定申告を行わずにいると、社会生活において不都合が生じる場面が出てくることがあります。大きな影響が考えられるのは、主に以下の2点です。
各種ローンを組めなくなる可能性がある
ローンを組むためには、返済能力があることを示さなくてはなりません。そのためには、事業内容や所得額の証明が必要です。
しかし、確定申告をしていないと公的に証明するものがないため、ローンを組みにくくなってしまいます。
詳しくは後述する「赤字申告でも行える資金調達方法」で説明します。
非課税証明書が発行できない
確定申告をしていないということは、所得がいくらなのか、納税額がいくらなのか公的に証明できないということです。自治体も所得がわからないため、非課税証明書の発行ができません。
証明書の発行ができないことによる影響なんて、そんなにないのではと思われるかもしれませんが、大きな影響を受ける場面があります。その一つが国民健康保険料の算定です。国民健康保険料は所得に応じて額が決まりますので、確定申告をきちんとしておかないと不利になってしまう可能性があります。
パートナーや家族の扶養に入るという場合も、非課税証明書が必要なので、注意が必要です。
>>課税証明書・非課税証明書についてより詳しく知りたい方はこちらをご覧ください<<
国民健康保険料が抑えられない
個人事業主の場合、大抵の人は国民健康保険に加入していますが、国民健康保険料は前年の所得によって保険料が決まります。赤字の場合、無所得となるので保険料も優遇されますが、確定申告をしないと無所得ということが証明できないため、結果本来払うべき保険料より多くなってしまいます。
個人事業主は赤字だとメリットもある
個人事業主が赤字になるということは所得がないということです。経済的には大変かもしれませんが、きちんと赤字であることを申告すれば、いくつかのメリットが得られます。
所得税がかからない
所得税は、得られた所得に対してかけられる税金のことです。所得が0円であれば、そこにかかる税金ももちろん0円になります。
申告をしてもしなくても、所得税を払わなくていいことに変わりはありません。しかし、申告をすることで公的に「所得がないこと」と説明できます。それによって、そのほかの税金や自治体からもらえる助成金や手当などに影響が出てきます。
住民税・国民健康保険料などが最低限の金額で許容される
先程も説明しましたが、住民税や国民健康保険料は、所得の額に応じて算出されます。きちんと確定申告をすれば、所得がなかったことを考慮してもらえますので、どちらも最低限の金額の支払いで済むことになります。
所得税と違って、住民税や国民健康保険料は、公的なサービスを受けるために支払うもの。そのため、税金がまったくかからないということはありません。ただ、きちんと申告をすれば負担を減らすことができるのです。
もちろん偽装工作は厳禁
赤字になると金銭的にメリットがあるのなら、わざと赤字計上しようとする人もいるかもしれません。しかし、当然のことながら、経費を多く計上するなどの偽装工作は厳禁です。
個人事業主は、基本的に自分の事業で生計を立てている人。赤字であるということは、自分で生活ができないということになります。もちろん、うまくいかなくて赤字になることもあるでしょうし、貯金を切り崩したり親族から支援を受けたりして切り抜けられることもあるでしょう。
しかし、数年にわたって赤字での申告が続くと、正しく申告していないのではと税務署から怪しまれてしまうことがあります。当たり前のことですが、確定申告は正しく行うようにしましょう。
個人事業主が赤字になった場合どうなるか
個人事業主が赤字になってしまった場合、どのような処理をするのでしょうか。
そもそも赤字になり得る所得とは
所得にもいくつか種類があり、赤字になり得るものはいくつかあります。
- 事業所得…農業や製造業など、さまざまな事業によって得られる所得
- 不動産所得…不動産や土地の貸付などで得られる所得
- 山林所得…山林を伐採して譲渡したり、木が立ったまま譲渡したりして得られる所得
- 譲渡所得…土地や建物、株式などを譲渡して得られる所得
これらの中で複数の所得がある場合、赤字の所得を黒字になった所得から差し引くことができます。これを「損益通算」と言います。これができれば節税につながります。
>>所得の種類についてより詳しく知りたい方はこちらをご覧ください<<
白色申告者の場合
白色申告を行う方の場合、赤字繰越をすることはできません。その年ごとに所得を計算し、それに応じて税金が課されることになります。
ただし、変動所得(漁獲や養殖、印税などによる所得)や被災事業用資金の損失(災害で資産に被害を受けた場合の損失)についてのみ、繰越が認められています。
青色申告者の場合
青色申告を行う個人事業主の方は、赤字繰越が可能です。どういうことかというと、簡単に言えば、年をまたいで赤字と黒字を相殺できるということ。これによって、所得税額を減らすことが可能です。
これらの違いを考慮すると、個人事業主が確定申告を行う場合、青色申告の方が得であることがわかります。所得が赤字であっても青色申告を行った方が良い理由について、もう少し詳しく見ていきましょう。
赤字でも青色申告を行うべき理由
所得を明らかにして税金額を確定させるためなら、青色申告でも白色申告でもあまり差はないように感じられるかもしれません。しかし、申告をするなら、青色申告の方が有利です。赤字の場合であっても、青色申告をするメリットがあります。
青色申告とは何か
そもそも、青色申告とは「青色申告制度」を利用して行う確定申告のことです。事前に届け出を出し、定められた方法で記帳を行うことで利用できる制度で、白色申告よりも税金面で有利となります。
青色申告なら赤字が最大3年間まで繰り越せる
先ほども説明したように、青色申告の場合は赤字を最大3年間繰り越すことができます。この申告を行うことを「損失申告」と言います。
損失申告ができるのは以下2つの条件に当てはまる場合です。
- 事業所得、不動産所得、山林所得の計算上で生じた損失
- 他の所得区分との損益通算をして、なお赤字の金額が残る場合
どのように赤字を繰り越せるのか、見てみましょう。
例)昨年の所得が200万円の赤字で、今年の所得は100万円の黒字だった場合
昨年分…所得税額0円
今年分…100万円 – 200万円 = -100万円
赤字繰越をすると上記のような計算になりますので、所得税額は0円になります。この-100万円も、次の年に繰り越すことが可能です。ただし、個人事業主が赤字を繰り越せるのは3年間なので、注意しましょう。
赤字は次の年に繰り越すだけでなく、前年分の黒字と相殺して「純損失の繰戻し還付」を行うことも可能です。前年も青色申告を行っていれば、繰戻し請求をすることで、前年分の所得税の還付が受けられる制度となっています。
青色事業専従者給与として経費にすることができる
原則、配偶者や親族に支払った給与は経費に算入することができませんが、青色申告をした場合は次の要件のいずれにも該当する人への給与は必要経費に算入することができます。
- 青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること
- その年の12月31日現在で年齢が15歳以上であること
- その年を通じて6ヶ月を超える期間その青色申告者の営む事業に専ら従事していること
専ら従事していることが条件のため、学生やちょっと家族が手伝った程度では経費にはできません。1年の半分以上、事業に従事する必要があります。
赤字だと青色申告特別控除は適用されない
青色申告には様々なメリットがありますが、最大のメリットである「青色申告特別控除」は赤字の場合は適用されません。
青色申告特別控除は最大65万円まで控除されますが、黒字が10万円だった場合は10万円の控除となります。そのため、赤字の場合は黒字0円となるので控除額も0円になります。
赤字を繰り越す場合の確定申告書の書き方
赤字繰越をするためには、損失申告をしなくてはなりません。損失申告をするためには、確定申告書Bの第一表と第二表に加え、第四表(一)と第四表(二)の提出が必要となります。
例として、1年目に200万円の赤字があり、2年目に100万円の黒字になったとします。
まずは、第四表(一)の記入です。「1 損失額又は所得金額」の項目内の1番最初に、「経常所得(申告書第一表の①から⑦までの合計額)」を記載する欄があります。ここに、「-1,000,000」と記入しましょう。
次に、下方にある「2 損益の通算」の部分の記入です。項目内に、A「経常所得」という欄があります。その中に「Ⓐ通算前」「Ⓑ第1次通算後」「Ⓒ第2次通算後」「Ⓓ第3次通算後」「Ⓔ損失額又は所得金額」と5つの記載箇所がありますが、すべてに「-1,000,000」と記入しましょう。
続いて、第四表(二)です。「3 翌年以後に繰り越す損失額」の項目内にある「青色申告者の損失の金額」の欄に「-1,000,000」と記入します。
損失申告に必要な申告書の作成は、これだけです。事業に赤字が出てしまった場合は、忘れずに申告するようにしましょう。
赤字申告でも行える資金調達方法
赤字申告をすると、事業に必要な資金調達が難しくなるのではないかと心配な方もいるかもしれません。赤字であっても、いくつか利用できる資金調達方法があります。その中で、不動産を利用した資金調達方法をご紹介しましょう。
リースバック
銀行からの融資が難しい場合、保有している不動産を売却して現金を得て事業資金に回す、ということが可能です。しかし、その不動産を利用して事業をしている場合、事業そのものができなくなってしまいます。
そこで利用できるのが、リースバックという方法です。リースバックとは、売却後にリース契約を結び、今まで通りに売却した不動産を利用するという方法。毎月のリース費用は発生しますが、入ってくる売却代金を資金として利用できるというメリットがあります。
不動産担保ローン
自分が保有している不動産に資産価値があれば、それを担保に融資を受けることも可能です。銀行以外にも、不動産担保ローンを取り扱っている業者はあります。ノンバンクの業者は、銀行では扱わないような不動産でも担保にできる場合がありますので、一度問い合わせてみても良いかもしれません。
不動産売却
事業に大きな影響がなければ、思い切って不動産を売却してしまうのも選択肢の一つです。売却で得た現金は一括で手元に入ってきますので、資金や赤字の補填などに利用できます。
さいごに
今回は、個人事業主が赤字になった場合の申告や、税金の取り扱いなどについてご説明してきました。赤字の場合は申告する義務はありませんが、申告をしないことのデメリットも大きいです。
きちんと申告をすることで、節税にもつながります。確定申告をするのであれば、白色申告よりも青色申告の方がメリットは大きいです。経済的な負担を軽減するためにも、赤字かどうかに関わらず、青色申告をすることをおすすめします。
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