個人事業主が屋号付きの銀行口座を持つことで様々なメリットがあります。
この記事では、屋号付き口座のメリットや口座開設の流れ、必要書類などをご紹介していきます。ぜひご参考いただければ幸いです。
屋号付きの口座とは
屋号付きの口座とは、「屋号名+氏名」が名義に入っている銀行口座のことをいいます。
名義が「屋号名」のみでないのは、詐欺や他の犯罪などに悪用されるリスクがあるからです。そのため、ほどんどの銀行で屋号のみでの口座開設はできません。
また、口座名義にできる屋号は登録している屋号のみです。
開業時に提出する「個人事業の開業届」、あるいは毎年提出しなければならない「確定申告書」のどちらかから屋号を登録できます。
開業届、確定申告書で屋号名を登録していない方は、屋号付き口座を作成できないので気をつけましょう。
>>屋号の手続きについてもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事がおすすめです。<<
個人口座と屋号付き口座の違いとは?
屋号付き口座と個人口座の違いは、口座の名義に屋号が入っているか、入ってないかの違いになります。また、個人口座とは違い、どこの銀行でも屋号付き口座を作成できるというわけではないので注意しましょう。
もし、屋号付き口座を開設しようと考えているのであれば、あらかじめ屋号付き口座を作成できる銀行を調べておく必要があります。
下記では、個人口座と屋号付き口座の違いをまとめました。
個人口座
- どこの支店の口座も開設ができる
- 銀行の来店時に口座開設ができる
- 「インターネット」「テレビ」「電話」「郵送」などで口座開設ができる
屋号付き口座
- 基本的に窓口のみでしか口座開設ができない
- 開業届の提出がなければ口座開設ができない
- 口座開設に1週間程度の時間がかかる場合がある
- 自宅や事業所から一番近い支店の口座のみでしか口座開設ができない
このように、個人口座は簡単に口座開設できますが、屋号付き口座は個人口座に比べて開設するのに手間や時間がかかります。特に屋号付き口座は開設するためには、開業届の提出をしていなければ開設できないこともあるので、開業届を税務署へ提出していない方は注意しましょう。
屋号付き口座を持つメリット
個人口座と屋号付き口座の違いを見る限り、屋号付き口座にメリットはないのでは?と感じた方もいることでしょう。
屋号付き口座にももちろんメリットはあります。ここからは屋号付き口座のメリットについてご紹介していきます。
お金の管理が楽になる
個人事業主が事業の支出を管理するために、個人口座を利用しても全く問題ありません。
しかし、事業用とプライベート用で口座を分けていないと、事業で使ったお金なのかプライベートで使ったお金なのかが分かりにくくなり、経費の計算に手間がかかってしまいます。
事業用に屋号が付いていない個人口座を開設するのも手ですが、名義が一緒だと間違えてプライベート用の口座で金銭のやり取りをしてしまう可能性もあるため、おすすめしません。
屋号付き口座であれば間違えて金銭のやり取りをすることもなく、経費管理も楽になります。
また、青色申告で65万円の特別控除を受けるためには、確定申告の際に「貸借対照表」を提出しなければなりません。
貸借対照表とは、財政状態を表す決算書の一つで、この貸借対照表を作成する際には口座上の取引もすべて帳簿付けしなくてはなりません。
もし事業用とプライベート用で口座が分かれていないのであれば、事業用でない出入金も「業主借」や「事業主貸」といった勘定科目で記帳する必要があり、手間が増えてしまいます。
そこで事業用に口座を作っておけば事業の支出のみの管理で問題ないため、余計な手間をかけずに確定申告書を作成できます。
もちろん屋号付きの口座でなくても、事業用とプライベート用で口座を分けていれば問題ありません。しかし、どうせなら屋号付き口座にして屋号付き口座を開設することで得られるその他のメリットも享受した方がお得だと言えます。
税務調査に対応しやすい
税務調査とは、税務署のような国税庁管轄下の組織が、毎年行われる確定申告に対し、申告内容が正しいかどうかを確認・調査することを言います。
万が一、税務調査があった際には銀行口座の中身も確認されます。
このとき事業用とプライベート用で口座を分けていなかった場合、経費の中にプライベート用で使った費用も含まれているのではないかと疑われてしまう可能性があります。
また、プライベートでの支出を他人に見られるのは良い気がしません。
しかし、屋号付き口座があれば事業用の収支のみを確認してもらいやすく、プライベート用の支出まで見られる心配はありません。
顧客や取引先の信用を得やすい
自身が仕事の取引でお金を振り込む際、口座名義が個人名のみだった場合「実際に事業をやっているのか?」と不安になることがありませんか?
同様に取引先や顧客の中にもそのような不安を抱く方も存在します。
しかし、屋号が記載されている銀行口座であれば「しっかりと事業を行っている」という信頼感を顧客に与えられます。
屋号が付いているだけで取引先の印象がガラリと変わり、信用を獲得できることも屋号付き口座のメリットの一つと言えるでしょう。
本名を公開しなくて良い
ネットショップを経営している場合、商品を購入した不特定多数の人から代金が振り込まれます。その際、個人口座の場合だと自身の本名が口座名義人として記載されます。個人名のみが記載された個人口座であることに顧客が不安に感じてしまうのはもちろん、自身も不特定多数の人に本名を知られてしまいます。
ペンネームで仕事をしている方も同様です。取引先に本名を知られることに抵抗がある方もいるのではないでしょうか。
もちろん本名を知られることに抵抗がないのであれば問題ありませんが、取引先や不特定多数の人に本名を知られたくない場合は、屋号付き口座の開設をおすすめします。
個人事業主が屋号付き口座を開設する流れ
個人事業主が屋号付き口座を開設する流れをご説明していきます。
ここで説明するのは一般的な口座開設の流れです。より詳しい口座開設の流れを知りたい方は開設を希望する銀行の公式サイトをご確認ください。
1.屋号付き口座を開設する銀行を選ぶ
屋号付き口座は「ネット銀行」「地方銀行・信用金庫」「大手銀行」で開設が可能です。
銀行によって特徴が異なるため、まずは自身のビジネススタイルや口座の使い方によって口座開設する銀行を慎重に選びましょう。各銀行の特徴は下記の通りです。
ネット銀行
ネット銀行の特徴は、口座の維持手数料やシステム利用料が無料であり、振込手数料が安いことです。口座開設の審査は大手銀行よりも厳しくないため、簡単に口座開設ができます。
また、パソコン・スマートフォンで気軽に事業の売上や入金・出金を確認できるため、忙しくて銀行に出向いてる余裕がない方におすすめです。
地方銀行・信用金庫
現状、個人事業を営んでいるが、ゆくゆくは事業拡大のために銀行の融資を受けたい場合は地方銀行や信用金庫での口座開設がおすすめです。
地域密着型の地方銀行や信用金庫であれば屋号付き口座の開設もしやすく、融資の相談も乗ってくれる可能性があります。
ただし、ATMの設置数が大手銀行に比べると少ないため、全国規模で取引がある業種には向いてません。
大手銀行
大手の銀行口座を持つメリットは、クライアントや取引先からの信用度が高くなることです。また、全国に支店やATMがあるので利用しやすく、同じ大手の銀行口座を持っていると振込手数料が安くなることもメリットとしてあります。
しかし、いずれは融資を受けたいと考えているのであれば、大手銀行では難しいでしょう。
大手銀行のほとんどが事業規模の大きい会社に融資をしており、個人事業主は融資の対象外です。
また、ネット銀行や地方銀行に比べて屋号付き口座開設の際の審査も厳しく、開業したばかりの個人事業主だと口座開設が難しくなります。
それでも大手の銀行口座を開設したいのであれば、思い切って挑戦しても良いかもしれません。その場合は、各銀行ごとの手続の方針や必要書類をあらかじめ調べておきましょう。
2.必要な書類やものを準備する
屋号付き口座を開設するために必要な書類は各銀行ごとに異なりますが、一般的に以下の書類が必要になります。
本人確認書類
ほぼ全ての銀行で本人確認書類は必須です。
以下のいずれかが必要となるので、事前に開設を希望する銀行の公式サイトを確認しておきましょう。
- 運転免許証
- 健康保険証
- マイナンバーカード
- 印鑑証明書
- 住民票のコピー
- 住民基本台帳カード(顔写真とQRコードの印字があるもの)
個人事業の開業届
屋号付き口座を開設条件は、事業を営んでいることが必須です。
そのため、事業を営んでいることを証明できる「個人事業の開業届」の提出が必要になります。もし、事業を始めているにも関わらず開業届を提出していない場合は、速やかに提出しましょう。
銀行によっては提出する開業届が、控えの原本やコピーなど異なります。
また、開業届を提出して数年経っている場合は確定申告書の提出でも良いこともあります。
詳細については開設を希望する銀行の公式サイトを確認しましょう。
>>開業届の手続きについてもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事がおすすめです。<<
印鑑
ほとんどの銀行でシャチハタやゴム印は不可です。
銀行によって銀行印の登録が必要になることがあります。銀行印とは銀行・信用金庫などに印影の届出をしている印鑑のことで、お金を出し入れする際に必要なものです。
他の契約で使っている印鑑と間違わないように、屋号付きの口座開設の前に事業用の銀行印を作っておくことをおすすめします。
屋号確認書類
屋号付き口座を開設するにあたって、屋号を使って事業を行っていることを確認できる書類を提出しなければなりません。
屋号の確認書類は、所得税の納税証明書や店舗の賃貸契約書の他、下記が該当します。どの書類に屋号が記載されているか一度確認してみましょう。
- 社会保険料の領収書
- 店舗・事務所などの賃貸契約書
- 所得税や住民税の確定申告書控え
- 所得税や地方税の納税証明書または領収証
- 水道代や電気代、ガス台などの公共料金の領収書
もし、どの書類にも屋号の記載がない場合は、他のもので代替できるか一度銀行に確認した方が良いでしょう。
中には個人事業主の「事業用Webサイトを印刷したもの」を確認書類とする銀行もあります。
屋号付き口座が作れる銀行
屋号付き口座は全ての銀行で開設できるわけではありません。
また、個人口座とは違い、申請当日に口座が開設されるわけではないので、事業を開始する前に必要書類を揃えて申請しておく必要があります。
そこで、ここからは屋号付き口座が作れる銀行と口座開設する際に必要な書類をご紹介します。
銀行によってはここでご紹介する書類以外のものも必要となる場合があるため、必ず事前に開設を希望する銀行の公式サイトを確認しておきましょう。
三菱UFJ銀行
三菱UFJ銀行は大手の銀行の1つで、クライアントや取引先にも信頼されている銀行です。屋号付き口座開設のためには、下記の書類が必要になります。
- 本人確認書類
- 屋号確認書類
- 印鑑
通常の個人口座の開設であればアプリや郵送などで開設できますが、屋号付き口座開設の場合は窓口のみでの受付となっています。さらに、事業を営んでいる場所の最寄りの支店でないと口座開設できないので注意しましょう。
口座開設の詳細については、下記の三菱UFJ銀行のWebサイトが参考になります。
みずほ銀行
みずほ銀行は、初回来店時に下記のものが必要です。
- 本人確認書類
- 印鑑
初回来店時は審査のみで開設は後日となるため、上記2点を持参すれば問題ありません。
事業内容や口座開設の目的などをヒアリングの上で審査されるので、スムーズに答えられるようにしておくと良いでしょう。
審査後はおよそ1週間ほどで審査結果が届きます。審査に通れば口座開設に必要な書類を提出するという流れです。
口座開設の際に必要な書類はみずほ銀行のWebサイトには明記されておりませんが、上記書類と合わせて屋号を確認できる書類が必要となる可能性があります。初回来店時に何が必要となるのか確認しておきましょう。
また、みずほ銀行の屋号口座は「営業性個人口座」と言い、通常の個人口座と同じ取扱いになります。そのため、既にみずほ銀行の口座を開設している方は屋号付き口座の開設はできません。
口座開設の詳細については、下記のみずほ銀行のWebサイトが参考になります。
個人事業主としての口座を開設したい | みずほ銀行のFAQ(よくあるご質問)
三井住友銀行
三井住友銀行は、来店時に下記の書類の提出が必要です。
- 本人確認書類
- 開業届の控え(原本)
- 印鑑
開業届はコピーではなく控え(原本)を用意しなければなりません。
また、三井住友銀行のWebサイトには明記されておりませんが、上記書類と合わせて屋号確認書類が必要となる可能性があります。その際は自身のWebサイトを印刷したもので問題ないため、事前に印刷して持参しておくと安心です。
口座開設の詳細については、下記の三井住友銀行のWebサイトが参考になります。
三井住友銀行もみずほ銀行と同様で「営業性個人口座」になります。既に口座を開設している方は屋号付き口座を開設できないので注意しましょう。
ゆうちょ銀行
ゆうちょ銀行は、来店時に下記の書類を提出する必要があります。
- 本人確認書類
- 屋号確認書類
- 印鑑
ゆうちょ銀行の特徴は、唯一「屋号名のみ」で振替口座を開設できる点です。
通常であればどこの銀行も「屋号名+氏名」の名義での口座開設となりますが、「屋号名」のみで振替口座を開設できるのはゆうちょ銀行だけです。
そのため、クライアントや取引先に自身の本名を明かさず振込依頼が可能です。
しかし、振替口座の開設と別名の使用については審査があるため、注意しましょう。
また、振替口座は通帳やキャッシュカードがないため、お金を引き出す際は窓口で対応してもらわなければなりません。
しかし、「ゆうちょダイレクト」というネットバンキングを利用すればこの問題も解消されます。ゆうちょダイレクトで自分名義の総合口座を開設し、事業用の振替口座から自分名義の総合口座に振替を行うことで、最寄りのATMで引き出せます。その上、入出金の確認もインターネット上でリアルタイムにできるため、屋号付き口座開設の際にはゆうちょダイレクトも同時に開設しておきましょう。
口座開設の詳細については、下記のゆうちょ銀行のWebサイトが参考になります。
個人商店の屋号名で振替口座を開設できますか。| よくあるご質問 | 株式会社ゆうちょ銀行
楽天銀行
楽天銀行の口座開設の際には、下記の書類が必要です。
- 本人確認書類
- 開業届のコピー
楽天銀行で屋号付き口座を開設するには、まずは個人口座を開設しなければなりません。
個人口座開設の際に本人確認書類が必要となりますが、郵送や配達員に提示する方法のほか、楽天銀行のアプリからも本人確認書類を送れます。
アプリからであれば本人確認書類の写真を撮影して送信するだけで完了するため、郵送や配達員に提示する方法よりも早くに口座開設ができます。
個人口座の開設後、「個人ビジネス口座」の開設申し込みをします。すると楽天銀行から「開業届のコピー」を送付するための返信用封筒が届くので、その返信用封筒に開業届のコピーを入れて郵送しましょう。これだけで手続きが完了です。
このように手続きがとても簡単な上に、下記のようなメリットもあります。
- ATM手数料0円(最大月7回)
- 他行宛振込手数料0円(最大月3回)
- コンビニATMで24時間365日利用可能
口座開設の詳細については、下記の楽天銀行のWebサイトが参考になります。
口座開設の流れ | 個人ビジネス口座開設申込 | 個人事業主のお客さま | 楽天銀行
PayPay銀行
PayPay銀行の口座開設の際には、下記の書類が必要です。
- 本人確認書類
スマートフォンで申請フォームに入力し、本人確認書類を撮影・アップロードのみで口座開設の手続きができます。
注意点としては、本人確認書類のアップロードがスマートフォンのみの対応となっていることです。パソコンからはこの手続きは行えないので気をつけましょう。
このようにPayPay銀行は屋号付き口座開設の手続きがとても簡単です。
開業したばかりで銀行に出向く余裕のない方は、PayPay銀行の口座開設がおすすめです。
口座開設の詳細については、下記のPayPay銀行のWebサイトが参考になります。
屋号付き口座の上手な使い方
せっかく屋号付き口座を開設しても、結局は個人口座ばかりを利用しているなんてことにならないよう、屋号付き口座の上手な使い方や管理方法をご紹介します。
まず屋号付き口座は1つに絞って開設した方が良いです。なぜなら、複数の事業用口座があるとお金の出入りが複雑になり、経費管理に手間取ってしまうからです。
屋号付き口座を開設した後は、ビジネスでのお金のやり取りは屋号付き口座のみで行いましょう。
取引先には屋号付き口座へ入金してもらい、支払いする場合も屋号付き口座を使うように徹底します。間違えて個人口座でお金のやり取りをしてしまっては屋号付き口座のメリットを最大限享受できません。
逆も然りで、経費にならないお金は必ず個人口座で支払うようにしましょう。
また、屋号付き口座から個人口座へのお金の移動はなるべく月に1回程度に抑えると、帳簿付けの手間がかかりません。
さいごに
個人事業主が屋号付き口座を開設するメリットや口座開設の流れ、必要書類を説明してきました。
開設する銀行口座はしっかりとメリットを享受できるかを考えて口座を開設した方が良いでしょう。
特に開業当初の段階では実績がないため、大手銀行では屋号付き口座開設の審査は厳しいものになります。その場合は、比較的審査が通りやすいネット銀行で口座開設すると良いでしょう。
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