テレワークを導入するにあたって労働基準法は適用されるのかどうなのか、気になっている方もいるのではないでしょうか。
この記事ではテレワークを導入するにあたって理解しておく必要のある労働基準関係法令や各種注意点について解説します。
テレワークとは
厚生労働省によると、テレワークとは「ICT(情報通信技術)を活用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」と定義しています。
また、テレワークという働き方の中にはいくつか種類があり、企業に雇用されながらテレワークを行う場合は、「在宅勤務」「モバイルワーク」「サテライトオフィス」のいずれかに分類されます。
一方、企業と雇用関係を持たずに個人事業主としてテレワークを行う場合は「SOHO」、「内職副業型勤務」のいずれかに分類されます。
以下の記事ではテレワークについて詳しく解説しているので興味のある方はご覧ください。
>>テレワーク(リモートワーク)について詳しく知りたい方はこちら<<
在宅勤務とは
厚生労働省によると、在宅勤務とは「事業主と雇用関係にある労働者が、労働時間の全部または一部について、自宅で情報通信機器を用いて行う勤務形態」と定義しています。
また、在宅勤務はテレワークの中に含まれる働き方の一つです。
以下の記事では在宅勤務について詳しく説明しているので、興味がある方はご覧ください。
テレワーク(在宅勤務)のメリット
テレワークのメリットとして以下のものが挙げられます。
企業側と社員側の2つの視点からご紹介します。
企業側のメリット
- 業務効率や生産性が向上する
- 離職率が低下する
- 様々なコストを削減できる
- 優秀な人材を確保できる
社員側のメリット
- ワークライフバランスが充実する
- 通勤ストレスがなくなる
- 居住地の選択肢が広がる
- 家族とのコミュニケーションが増加する
テレワーク(在宅勤務)のデメリット
テレワークのデメリットとしては以下のものが挙げられます。
こちらも企業側と社員側の2つの視点からご紹介します。
企業側のメリット
- 環境整備コストがかかる
- 情報漏えいのリスクが高まる
- 部下のマネジメントがしにくい
- 社員の一部に方針変更に対する抵抗感を感じさせる
社員側のメリット
- 長時間労働になりやすい
- 仕事とプライベートが混同する
- 正当な評価を受けづらい
- コミュニーケーションが希薄化する
テレワーク(在宅勤務)にも労働基準法は適用される?
通常の労働と同様に、テレワークにおいても労働基準関係法令は適用されるのでしょうか。テレワークをする労働者に関する法律上の取り扱いについて解説します。
まず、テレワークに労働法制が適用されるか否かを説明する前に押さえておくべきことは、テレワークを利用する労働者は雇用されているのか、請負・委任形態で契約しているのかという点です。
雇用と請負・委任の判断は、契約の名称に基づくのではなく、使用者と労働者の間に指揮監督関係が存在するのかといった業務の実態に基づきます。
もし体裁は業務委任契約としていながらも、実態は雇用契約であると判断された場合は偽装請負として法的リスクを負う可能性があります。
労働法制の適用を考える前に、雇用型のテレワークなのか、または請負・委任型のテレワークなのかをきちんと整理するところから行いましょう。
テレワーク(在宅勤務)にも労働法制は適用される
雇用型のテレワークの場合は事業場内での仕事と同様に、労働法制が適用されます。
適用される労働法制には以下のものが挙げられます。
労働基準法
労働基準法とは、労働条件の最低基準を定めた法律です。
労働時間や年次有給休暇、割増賃金などは労働基準法に即して定めなければならず、労働基準法には労働者を使用者から保護する役割が期待されています。
また、労働基準法の規定は強行法規となっています。
強行法規とは、その規定に対して労使間で合意がされているか否かに関わらず適用される規定のことです。
つまり、ある規定に関して労使間で合意がなされている場合であっても、労働条件が労働基準法に反していればその合意は無効となります。
労働契約法
労働契約法とは、労働紛争を未然に防止するために労働契約についての基本的なルールを示した法律です。
就業形態の多様化に伴い、個別に労働条件が変更されることが増えた結果、労働紛争(労働条件や労働関係に関して使用者と労働者との間で起こる紛争)が増えています。
こうした状況に対応するべく平成20年3月に労働契約法は制定されました。
労働契約法には、不当な労働契約内容の変更から労働者を保護する役割が期待されています。
最低賃金法
最低賃金法とは、使用者が労働者に支払う給与の最低金額を定めた法律です。
金額は各都道府県ごとに定められています。
労働安全衛生法
労働安全衛生法とは、職場における労働者の安全と健康の確保、快適な職場環境の形成を目的に制定された法律です。
具体的には労働者を業務上の危険から保護する労働管理体制や、労働者に対する安全衛生教育などについて定められています。
労働者災害補償保険法
労働者災害補償保険法とは、労働者の通勤災害、業務災害に対する保険給付について定められた法律です。
労働基準関係法令上の注意点
ここではテレワークを導入する際に、労働基準関係法令上で注意するべきポイントをいくつかご紹介します。
労働基準法上の注意点
テレワークを労働者に行わせる場合、就業規則にテレワークに関する規定が必要となるケースがあります。
既に就業規則があり、労働条件に変更がなければ就業規則を変更する必要はありません。もし変更があれば就業規則を書き換える必要があります。
もし、就業規則がなく、常時10人以上の労働者を使用する使用者であれば、必ず就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出さなければなりません。
常時10人以上の労働者がいるにも関わらず、就業規則を作成してなかったり、就業規則に「記載すべきとされている事項」についての記載がなかったりした場合、作成義務違反として最大30万円の罰金が課せられる可能性があります。(同法第120条第1号)
この「就業規則に記載するべきとされている事項」とは、勤務時間、休憩、休日、休暇、賃金、退職に関することです。
事業者の方は、就業規則を変更する必要があるのか、記載すべき事項がきちんと記載されているのかを今一度確認しましょう。
なお、テレワークに関する勤務規定の例としては以下のものが挙げられます。
- 「テレワークの命令」に関する規定
- 「テレワーク時の労働時間」に関する規定
- 「通信料や情報通信機器などの支払い」に関する規定
- 「テレワーク時の賃金および計算方法」に関する規定
- 通信機器等の費用負担についての規定
- テレワークを行う労働者の健康管理のための規定
- テレワークについての教育・研修のための規定
- テレワーク適用対象者についての定め
就業規則を作成および変更した際は、所轄の労働基準監督署長に届出を行い、必ず労働者に就業規則の周知を行いましょう。
また、就業規則を変更する手続きは以下の通りです。
- 就業規則の改定もしくは別規程の作成
就業規則を変更する場合は、テレワークに関する規程を定め、既存の就業規則に追加しましょう。もしくは、新たに「テレワーク勤務規程」を作成する方法があります。
新たに作成する場合、自社で導入するテレワークがモバイルワークであったり、サテライトオフィス勤務であったりする場合も含むのであれば、勤務形態別に規程を設けなければなりません。
- 所轄労働基準監督署に届出
1のステップ後、新設または変更した就業規則について、従業員の過半数を代表する人の意見書を添付して所轄労働基準監督署に届け出る必要があります。
また、変更した内容について従業員に周知させるようにしましょう。
なお、従業員が10名未満の場合は、そもそも就業規則の法的作成義務はないため必要ありませんが、トラブルなく円滑にテレワークを実施していくためにも就業規則でのルールづくりをしておくことをおすすめします。
すでに雇っている労働者に在宅勤務を行わせる場合
すでに雇用している労働者にテレワークを行わせる場合、労働条件の変更についてできる限り書面で伝えるようにしましょう。
また、労働条件を変更する際は、「労働者の合意」を得る必要があります。
ただし、労働者の合意に得ていても、就業規則で定める基準に達しない労働条件は無効になるので気をつけましょう。
労働条件を変更することによって、就業規則を書き換える場合は、以下の2点が必須となります。
- 就業規則の改定を労働者に周知させること
- 就業規則の改定内容が合理的であること
新たに雇う労働者に在宅勤務を行わせる場合
「就業場所」は労働契約締結に際し、書面交付で明示しなければならない労働条件です。
そのため、新しく雇う労働者にテレワークを行わせる場合は、雇用契約書、あるいは労働条件通知書の就業場所に自宅が含まれることを明記しておきましょう。
なお、従来は労働条件通知書は「紙」での記載が原則とされていましたが、2019年4月以降から、ITの進展に伴いPDFやメール本文に記載する形も認められました。
>>在宅勤務・テレワークにおける就業規則について詳しく知りたい方はこちら<<
労働安全衛生法上の注意点
ここでは、テレワークの労働安全衛生法上で厚生労働省に指摘されている注意点をご紹介します。
健康診断
事業者は、労働者にテレワークを行わせる場合、労働者に必要な健康診断を行わせる必要があります。(労働安全衛生法第66条第1項)
ここで言う「必要な健康診断」とは、具体的に以下のものを指しています。
- 雇入時の健康診断(労働安全衛生規則 第43条)
- 定期健康診断(労働安全衛生規則 第44条)
また、常時50人以上の従業員を使用している場合は、ストレスチェックを行う必要もあるので、留意しましょう。
安全衛生教育の実施
事業者は、テレワークを行う労働者を雇い入れた際、安全衛生教育を行う必要があります。(労働安全衛生法第 59条第1項)
安全衛生教育を行う際、「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」に基づいて必要な安全衛生教育を行うとよいでしょう。テレワーク時の適切な照明の量や姿勢、休憩時間などが示されています。
このガイドラインは令和1年に厚生労働省より公表されたもので、当初はテレワークにおける健康管理の方法を載せたガイドラインとして「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」(平成 14年4月5日付け基発第0405001号)を公表していましたが、IT化が加速したことによって、このガイドラインに示したパターンに当てはめきれないほど作業形態が多様化しました。
そこで厚生労働省は多様化した作業形態への細やかな対応を可能にするためのガイドラインとして「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」を新たに公表したという背景があります。
テレワークを導入するにあたって、使用者は上記のガイドラインに即した対応を取り、労働者の健康保持に留意するようにしましょう。
※VDT(Visual Display Terminals)作業とは、パソコンのようなディスプレイを持つ画面表示装置を使用して作業することです
労働者災害補償保険法上の注意点
テレワーク中に業務が原因で災害が発生した場合は、事業場内での業務と同様に労働災害保険の保険給付対象になります。
ただし、テレワーク中に私的行為が原因で発生した災害については、労働災害保険の給付対象にはならないのでご注意ください。
>>テレワーク(在宅勤務)における労働災害の取り扱いについてはこちらをご覧ください<<
テレワーク(在宅勤務)を導入する際に気をつけるべきポイント
テレワークを導入する際には先程示した労働関係法令上の注意点以外にも、様々な注意点があります。
以下ではテレワークを導入した際に起こりやすいトラブルを、未然に防ぐために留意するべき事項をご紹介します。
労使間での認識のすれ違いをなくす
テレワークを導入する場合、事業者は労働者に対してテレワークを強制できない決まりになっています。
「そんなこと聞いていない!」といった認識のすれ違いが生じないよう、事業者はテレワークを導入する目的や対象とする業務、テレワークの方法などについて労働者と十分に話し合いましょう。
また、労使間で協議した内容は文書として保存しておくことが望ましいです。
事前にテレワークの業務内容や、通常または緊急時の連絡方法などを文書として交付しておくことで、テレワークを効率的に実施できます。
なお、合意の上でテレワークを導入した場合であっても、実際にテレワークを行うかどうかは労働者の意向に基づいて実行されなければなりません。
労働時間について定めておく
テレワークにおいて通常の労働時間制度を採用しても問題ありません。
しかし、テレワークの場合はオフィス勤務時と違い、正確な労働時間の把握ができません。
そこで、適切な労働時間を管理するため、労働時間制度そのものを変更する会社もあります。
その際、法律で認められた一部の職種を対象に一定の時間働いたとみなす「裁量労働制」か、会社以外の場所で一定の時間働いたとみなす「事業場外みなし労働時間制」を適用することがほとんどです。
ただし、どちらの労働時間制度を適用したとしても、労働基準法に準じた労働時間の管理が使用者には求められます。
テレワークを導入する前に、あらかじめテレワーク時の勤怠管理方法や労働時間の算定方法を定めておくと同時に、労働者に対して十分な説明を行い、理解を得ておくようにしましょう。
以下の記事にはテレワーク時の労働時間管理について解説しているので、興味のある方はご覧ください。
>>テレワーク(在宅勤務)時の労働時間管理の方法や注意点についてはこちらをご覧ください<<
長時間労働の対策方法は?
テレワークを導入すると、通勤時間の短縮によって有効活用できる時間が増えるので、作業効率の向上が期待されるのは事実ですが、一方で、テレワークを導入すると従業員はプライベートと仕事の区別をつけにくくなるので、長時間労働が生じやすくなる恐れがあります。
使用者は労働者の健康を維持する義務があるので、長時間労働対策を念入りに行わなければなりません。
そこで、厚生労働省により発表された長時間労働を対策する4つの方法をご紹介します。
メール送付を抑制する
務時間外に仕事に関連したメールが送られてくると、労働者は仕事とプライベートとの区別が難しくなり、長時間労働を行いやすくなります。
したがって、時間外のメールの送付を取り締まる制度設計や呼びかけを行いましょう。
労働時間外のシステムへのアクセスを制限する
テレワークを導入すると、プライベートと仕事の区別をつけるのが難しくなり、ついつい深夜や休日に仕事を行う労働者が増える可能性があります。
そうならないよう、「いつでも仕事ができる」という環境を改善するとよいでしょう。
その一例として、労働時間外には労働者個人のPCから社内システムにログインできないように設定することが長時間労働の防止に有効です。
時間外・休日・深夜労働を原則禁止にする
上記に示したように長時間労働をできない仕組み作りを行うことも有効ですが、そもそも時間外労働を禁止にする、あるいは使用者の許可を得なければ時間外労働を行えない制度にすることも長時間労働対策として有効です。
この施策を実行することで、時間外労働を必要最低限に留められます。ただし、時間外労働を許可制ないし原則禁止にする際は、話し合いによって労働者の理解を取り付けた上で、時間外労働を禁止することを就業規則に定めましょう。
長時間労働等を行う労働者への注意喚起を徹底する
労働者の勤怠記録を踏まえて指導を行うべき対象者を選定したり、所定の労働時間を超過すると自動的に警告を促す労務管理システムを導入したりする方法があります。
特に、労働者の時間を自動で管理できるツールを導入すればパソコン稼働時間や勤怠時間を見える化できるので、具体的な注意喚起につなげられます。
業績評価・賃金制度などを再設計する
テレワークを導入したことによって労働者の作業効率が上がり、時間外労働が減少すれば残業代も少なくなります。
テレワークの導入にあたって、残業代の減少は労働者が不満を抱く一つの理由になるので、テレワークを制度として浸透させるためには、業績評価や賃金制度について再設計せねばならない要素でもあります。
もしテレワーク時に通常の労働とは異なる取り扱いをするのであれば、前もって就業規則に定めておくと同時に、当該事項を労働者に対して過不足なく説明しましょう。
ただし、テレワークの導入によって不当に賃金や手当を減額するなど、労働者の不利益になる変更はできない決まりになっており、不利益が生じる変更には正当な理由が必要です。
労働者の給料を削減する「正当な理由」には、勤務日数の減少や労働時間の縮小などが該当します。
テレワーク(在宅勤務)にかかる費用を決める
テレワーク時にかかるインターネットの通信費や必要機材などの費用負担に関しては、労働者と使用者の間で十分に話し合い、両者が合意する必要があります。
テレワークにおける手当や費用に関しては、以下の記事で解説しているので、興味がある方はご覧ください。
>>テレワーク・在宅勤務手当についてはこちらをご覧ください<<
テレワーク(在宅勤務)時の社内教育制度の拡充を図る
テレワークでは、集合研修やOJTなどを実施することが難しいため、“見て学ばせる”といった従来の社内教育が実施しにくくなります。
また、テレワーク時は、従業員の作業の様子を把握することも困難になるので、従業員の作業が非効率であっても気づきにくくなります。
こうした社内教育の課題を残したままでは、テレワークのメリットを享受することは難しいと言えます。
そこで労働者が十分な教育の機会を得られるよう、事業者は社内教育の拡充を図るとよいでしょう。
例えばeラーニングによる研修は、場所を問わず受講できるためテレワークにおいて最適な教育方法です。
自社に合った方法で教育制度を拡充することをおすすめします。
在宅勤務制度の活用事例
最後に、テレワークを活用する企業の事例をご紹介します。
さくらインターネット株式会社
インターネットインフラサービスを提供するさくらインターネット株式会社は、2016年に「さぶりこ」(Sakura Business and Life Co-Creation)という制度を策定し、2020年以降、リモートワークを前提とした働き方を推進しています。
その結果、出社率は2020年2月には82.8%、3月に23.6%、4月に7.2%、5月に8.6%、6月に10.8%と、大幅に減少しています。
特に、在宅勤務者の成果が見えにくいという課題については、チャットツールで個人の業務報告を行う文化を作り上げ、成果を可視化することで対応しています。
さいごに
さて、テレワークの労働基準法上の注意点について、理解は深まったでしょうか。
近年、注目を集めるテレワークは今後も私達の生活に根付いていく可能性は高いです。事業者は労働基準法を遵守し、労働者の理解を得た上で、テレワークを活用しましょう。
今すぐ複業をさがす