個人事業主の確定申告を行うと、税金の還付金が得られるという話を聞いたことがあるかもしれません。しかし、なぜ還付されるのか、どのような場合に還付金を得られるのかなど、詳しいことがよくわからないという方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、個人事業主の方が得られる税金の還付についてまとめました。
還付を受けるための方法やスケジュールも説明していますので、初めて還付申告をするという方や個人事業主になったばかりの方に、参考になれば幸いです。
個人事業主の所得税還付金とは?
そもそも、個人事業主が得られる還付金とは何なのでしょうか。
税金の種類と確定申告について触れながら、還付金のことについて説明していきます。
個人事業主が支払う税金
まずは、個人事業主が支払う必要のある税金の種類について確認しておきましょう。
支払う義務がある税金は、以下の通りです。
- 所得税…1年間の収入に対して課される税金で、国に納めるもの
- 住民税…地方税の1種で、市町村民税と都道府県税をまとめて指す
- 消費税…商品やサービスの販売などに対して課される税金。個人事業主の場合、前々年の年間所得が1,000万円以下の場合は免除される
- 個人事業税…70種類の定められた業種に対して課される税金。その年度の年間所得が290万円以下の場合は支払う必要がない
このほか、状況によっては固定資産税や源泉徴収税などを支払う必要があります。
>>税金の種類についてより詳しく知りたい方はこちらをご覧ください<<
個人事業主の確定申告
上記で紹介した税金のうち、還付が受けられるのは所得税です。雇用されている場合は、雇用主側が年末調整をすることによって払い過ぎていた所得税が還付されますが、個人事業主は自分で確定申告を行わなくてはなりません。
確定申告は、1年分の所得を申告して税金を確定させるためのものです。納めるべき税金が不足していた場合は足りない分を支払わなければなりません。逆に、税金を払い過ぎていた場合には、超過していた分が還付金として戻ってきます。
>>確定申告についてより詳しく知りたい方はこちらをご覧ください<<
個人事業主で還付金が戻ってくるパターン
同じ個人事業主であっても、確定申告によって還付金が戻ってくる人とそうでない人がいます。
還付金が戻ってくるパターンにはどのようなものがあるのか、説明していきます。
報酬から源泉徴収される場合
源泉徴収というと会社員の人が給料から引かれるものというイメージがあるかもしれません。
しかし、個人事業主として働くフリーランスや複業の方も、業務によっては源泉徴収される場合があります。
源泉徴収の対象となる業務には、以下のようなものが挙げられます。
- 原稿料
- 講演料
- デザイン料
- 弁護士や税理士、司法書士、公認会計士など特定の資格を持つ人に支払う報酬
- プロスポーツ選手やモデルなどに支払う報酬
- スポーツや料理教室などの指導料や講師料
これらの業務に携わっていて源泉徴収を受けている場合、申告によって還付金を受けられる可能性があります。
>>源泉徴収についてより詳しく知りたい方はこちらをご覧ください<<
税額控除の対象になる場合
源泉徴収を受けているかどうかにかかわらず、還付申告をすれば還付金を受け取れる場合があります。以下のようなケースでは、還付金の適用となる控除が受けられます。
- 多額の医療費を支払った…医療費控除
- 住宅ローンを支払っている(条件あり)…住宅借入金特別控除
- マイホームに特定の改修をした…特定増改築等住宅借入金等特別控除
- 認定住宅の新築をした…認定住宅等新築特別控除
- 災害や盗難などで住宅や家財に損害を受けた…雑損控除
- 特定の寄付をした…寄附金控除
これらの控除を受けるには、年末調整を受けた人であっても改めて還付申告が必要です。
そのほか、個人事業主の方は社会保険料や生命保険料なども控除対象となります。
>>控除についてより詳しく知りたい方はこちらをご覧ください<<
予定納税する場合
前年に一定額以上の所得税を納めている人は、その年の所得税を前もって納める制度があります。
これを予定納税といい、この形で税金を納めている場合も還付金が戻ってくるかもしれません。
予定納税の場合、前年に納めた所得税額をもとにおおよその税額を計算して、その額を2回に分けて納めることになります。
年末に所得が確定し、納めるべき税額よりも予定納税の額が上回っていたら、その分の額が還付金として戻ってきます。
会社を退職し、独立し個人事業主になった場合
その年の途中で退職して独立した場合、すでに会社で源泉徴収されている税金があります。
しかし、退職すると年末調整を受けることはできないので、自ら確定申告を行わなくてはなりません。年間の所得が少なければ、還付金が戻ってくる可能性があります。
個人事業主になったばかりの頃は所得が少なく、赤字になる人も少なくありません。
きちんと確定申告をすることで、還付金以外にも得られるメリットがあります。
1年間の所得が確定したら、忘れずに確定申告の手続きをしましょう。
>>個人事業主が赤字になったときのことについて詳しく知りたい方はこちらをご覧ください<<
還付申告で還付金が返ってこない所得
以下の所得に関しては還付申告の対象となっていないため、申告しても還付金を受け取ることはできないので注意しましょう。
- 預貯金の利子
- 抵当証券などの金融類似商品の収益
- 一定の割引債の償還差益
- 一時払養老保険の差益(保険期間等が5年以下のもの、保険期間等が5年超で5年以内に解約されたもの)
これらは源泉分離課税の対象となる所得です。
源泉分離課税とは、他の所得と分けて一定の率で税金を源泉徴収し、それで納税が完結する制度のことです。所得を受け取るときにすでに税金が引かれているため、申告の対象外となります。
還付されるためのチェックポイント
還付金を受け取るためには、申告が必要です。
実際に申告をする前に確認しておきたい事項について説明します。
支払調書を確認する
源泉徴収の対象となる報酬を受け取っていた場合、取引先から支払調書が送られてくることがあります。ここには、支払った報酬の額と源泉徴収された税金額が記載されていますので、その額を源泉徴収税額として申告しましょう。
ただし、支払調書は必ず送られてくるものではありません。取引先は税務署に提出する義務はあるものの、個人事業主への配布は義務ではないからです。個人事業主の方が確定申告を行うときも、支払調書を添付する必要はありません。送られてきた場合は、確認書類として参考にする程度で大丈夫です。
自分がいくら報酬を支払われたのか、いくら源泉徴収されているのかが申告時にわかるように、普段から帳簿につけたり請求書に記載したりするようにしましょう。
※支払調書とは、企業などが給料や賞与、退職手当などの支払いを誰に、いくら支払ったのかを税務署に報告するための書類です。税務署は、支払いを受け取った人が正しく納税をしているか、この書類で確認しています。
収入と必要経費を確認する
確定申告をして還付金を受け取るためには、その年の収入と必要経費がどれくらいだったかをきちんと確認しておきましょう。
個人事業主の場合、売り上げがそのまま所得になるわけではありません。
正確な所得額を出すためには、事業を行うために必要な経費を売り上げから差し引く必要があります。どれくらいの収入を得たのか、経費計上できるものはどれかを把握して、帳簿に記載しておきましょう。
所得の額によって所得税額も変わります。正確な税金額や還付金の額を計算するためには、これらをきちんと把握しておくことが大事です。
所得税の還付を受けるための手続き
支払調書と収入、必要経費の確認ができたら、実際に還付を受けるための還付申告という手続きをしなければなりません。還付申告とはに何か、これを申告するための具体的な流れについて注意点を踏まえて説明していきます。
還付申告とは
確定申告をすると、納め過ぎた税金の還付を受けることができます。この申告のことを還付申告といい、確定申告をする義務のない人でも申告によって還付を受けることが可能です。会社に雇用されている人であっても還付金が受け取れる場合があるので、状況に応じて申告をする必要があります。
還付申告が可能となる具体例等については、国税庁の「還付申告」のページを参考にしてください。
還付申告の方法
ここからは、還付申告をするために必要な書類と記載事項について説明していきます。
還付のために必要な書類
還付申告に必要な書類は、基本的に確定申告と変わりません。
株式や土地などの売買がある場合は第三表、赤字を繰り越す場合は第四表が必要となります。
状況に合わせて下記の資料を準備しましょう。
- 確定申告書B 第一表・第二表
- 収支内訳書(白色申告の場合)
- 青色申告決算書(青色申告の場合)
- 源泉徴収票または支払調書(添付は不要だが内容の記載が必要)
- 生命保険や医療費など控除に必要な書類
還付のために必要な確定申告書の記載事項
還付申告の際の記載事項も、確定申告と基本的に同じですが、還付を受けるために必要な下記の情報を確定申告に記載しておく必要があります。
- 所得の内訳書…源泉徴収対象となる報酬を受け取っていた場合、退職した会社などで源泉徴収を受けていた場合に記載が必要。所得の種類や報酬・給料の支払者、収入金額や源泉徴収税額を記載する
- 還付金を受け取る金融機関の口座情報(本人名義の口座のみ)
振り込みではなく、郵便局での受け取りを指定することも可能です。その場合は、確定申告書の「郵便局名等」の欄に希望する郵便局名を記載しておきましょう。税務署から還付金に関するハガキが届いたら、身分証明書と印鑑、届いたハガキを持っていくと郵便局で還付金を受けとることができます。
また、還付金を受け取る金融機関でインターネット専用銀行を指定したいときは、受け取りに対応しているかどうかを確認しましょう。
還付金を受け取るスケジュール
申告書を提出したからと言って、すぐに還付金が振り込まれるわけではありません。書類や記載内容に不備がないかどうかを審査する必要があるため、受け取るまでに一定期間を要します。
郵送で書類を提出した場合、還付金の振り込みまでに1〜2ヶ月程度かかります。e-Tax(電子申告)による申請であれば、2〜3週間程度で受け取ることが可能です。
還付金の額と振り込み手続き日が確定したら、国税還付金振込通知書が届きます。書類内容に不備がなければ上記の期間で届くことがほとんどです。
還付申告の注意点
還付申告は基本的に確定申告と手続きはほぼ変わりません。ただし、いくつか注意しておきたいことがありますので、その点について説明していきます。
還付申告は申告対象年の翌年から5年間内なら提出できる
確定申告は、原則として翌年2月16日から3月15日の間に行わなくてはなりません。ただし、確定申告の必要がない方の還付申告は、還付申告をする年分の翌年1月1日から5年間行うことが可能です。
もしも、確定申告の期間を過ぎてから還付を受けられることに気づいたとしても、この期間内であればさかのぼって申請ができます。還付されることに気がついていなかった、申請し忘れた控除が判明したなどの場合があれば、必要書類等を確認して申請しましょう。
還付申告するなら確定申告期間中は避けた方が良い
確定申告期間中は、確定申告をする義務のある人の手続きが殺到します。審査や振り込み手続き等に時間を要するため、還付金の受け取りにも通常より時間がかかる可能性があります。
上記で説明したとおり、その年の還付金を受け取る場合は、翌年1月1日から5年間であれば還付申告の手続きができます。早く還付金を受け取りたいのであれば、確定申告の期間より前の1月1日から2月15日までに行えば混雑も避けられ、更に確定申告の時期に還付申告を行った人より先に受理されるでしょう。
人混みを避けたい場合も、確定申告の期間以外かe-Taxでの申告をオススメします。
還付申告を少なく申告してしまった場合は?
還付申告をすでに終えたけれど、後から計算の間違いに気づいてしまったということもあるかもしれません。もしも、還付金の額を少なく申告してしまった場合、「更正の請求」という手続きによって改めて還付金を請求することができます。
更正の請求ができる期間は、還付申告書を提出した日から5年以内とされています。確定申告の期間内であれば、「訂正申告書」の提出によって金額の訂正が可能です。
更正の請求について詳しく知りたい方は、国税庁の「所得税及び復興特別所得税の更正の請求手続」のページをご確認ください。
還付金額の計算方法と会計処理
還付金を具体的にいくら受け取れるか、受け取った時の会計処理をどのようにするべきかを具体的に説明していきます。
還付金額の計算方法
還付金をいくら受け取れるかは、その人の状況によって異なります。
基本は「源泉徴収税額ー納めるべき所得税額=還付金」という形で算出可能です。
納めるべき所得税額を知るためには、まずは収入から必要経費、控除額等を差し引いて「課税される所得金額」を計算します。それに対し、決められた所得税の税率にもとづいて所得税額を算出しましょう。
たとえば、課税される所得金額が200万円であれば、所得税率は10%で所得控除が97,500円なので、所得税額は102,500円になります。これに復興特別所得税が加えられるため、102.1%をかけると104,600円です(100円未満切り捨て)。
源泉徴収された金額を計算し、そこから上記で計算した金額を引けば、還付される所得税の額が分かります。
還付金の会計処理
個人事業主が還付金を受け取ったら、会計処理が必要です。還付されたお金は事業所得などの収入には当てはまらないので、「事業主借」で会計処理をすることになります。
たとえば、還付金25,000円が普通預金に入金されたとします。その場合の会計処理は次のようになります。
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 適要 |
普通預金 | 25,000円 | 事業主借 | 25,000円 | 所得税還付金 |
入金されたからといって安心してそのままにせず、仕分けまできちんと行うのを忘れないようにしましょう。
※事業主借とは、個人事業主が事業とは関係ない収入があった場合に使う勘定科目になります。
さいごに
会社員とは違い、個人事業主は自分で申告や会計処理を行わなくてはなりません。源泉徴収されているのに還付申告をしないと、損をしてしまうことがあります。収入や源泉徴収額などを確認し、きちんと手続きを行うようにしましょう。
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