『働き方改革』という言葉をご存じの方は多いのではないでしょうか?
改革に向けて、既に関連する法律、企業にも動きが見られています。
この記事では、『働き方改革』における具体的な取り組みや、社会にもたらす影響などを詳しく説明していきます。
働き方改革とは?
働き方改革とは、多様な働き方を選択できる社会を目指し、政府が掲げた取り組みのことをいいます。
様々な働き方を社会に提案し、誰もが自分の環境や個性に合わせた働き方を選択できるということです。
働き方改革の背景
働き方改革が提案された背景には、日本の社会が直面している以下3つの課題が絡んでいます。
労働人口減少
日本では、少子高齢化に伴い生産年齢人口が減少傾向にあります。厚生労働省の総務省自治行政局の資料によると、高齢者などの労働市場への参加が進まず、さらに少子高齢化の流れをこのまま変えられない場合、2014年に6,351万人であった労働人口が、2030年に約88%の5,584万人、2050年には約67%の4,228万人になると推定されています。
労働生産性の低さ、長時間労働
日本が抱える大きな課題として、労働生産性の低さが挙げられます。公益財団法人日本生産性本部によると、2018年時点で、就業者1人当たり労働生産性は81,258ドルでした。また、順位はOECD加盟36カ国中21位で、主要先進7カ国では毎年最下位の状況が続いています。
そして、長時間労働も重大な問題です。
「働き方改革関連法」が施行される前は、1日8時間・1週40時間を上限とする法定労働時間は定めていたものの、「36(サブロク)協定」を結ぶことで実質的に労働時間を無限に延長することが可能でした。現在ではこれを行った場合、罰則が科せられます。
このように、労働環境は改善されていますが、法整備から日が浅いことから依然として長時間労働が習慣化しているような状況があります。長時間労働は、以下のような支障をきたすリスクがあります。
- 過労死
- 精神的、身体的な不調
- モチベーションや判断力の低下
- 仕事と家事の両立の困難
このように、労働生産性が低いために長時間労働が起こり、長時間労働によりさらに労働生産性が下がるという、負のループに陥ってしまいます。
また、仕事と家事が両立できないことについては、少子化、女性のキャリア形成の難しさ、男性の家庭参加の難しさにも拍車をかけています。
※36(サブロク)協定とは、労働基準法36条に基づく労使協定のことをいいます。
企業が従業員に法定労働時間(1日8時間・1週間で40時間)を超えて残業を命じる場合に労働基準監督署へ届出をしなければなりません。
※働き方改革関連法とは、2019年4月1日施行された「働き方改革を推進するため法律」のことをいいます。
正規、非正規の不合理な処遇の差
厚生労働省は、同じ職場で働く正規、非正規雇用労働者に不合理な処遇の差があると断定しています。
もしも、非正規雇用労働者が「正当な処遇を受けていない」と感じた場合、モチベーションの低下につながってしまい労働生産性がそれに伴い低くなっていく恐れがあります。
働き方改革の目的
厚生労働省は、働き方改革を目指す目的として次のようにいっています。
「働き方改革」は、この課題の解決のため、働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指しています。
「働き方改革」の実現に向けて |厚生労働省
この目的を達成するために、以下の3つの柱に沿って働き方改革は推進されています。
多様な働き方の実現
多様な働き方の選択肢があることで、今まで「働きたくても働けなかった」人材を労働力として取り込むことができます。利点としては、個々の働くニーズに応えられること、労働力確保の2点があります。
では、多様な働き方とは具体的にどのようなものでしょうか。
対象は、若者、女性、高齢者、障害者など働く意欲のある全ての人々です。その各々が、個々の能力を発揮でき、安心、安定して働くことができるような働き方を意味します。仕事と家庭(家事、育児、介護など)の両立ができる働き方、男女雇用機会の均等化などが挙げられます。
長時間労働の是正
長時間労働が改善させることで、社員側はプライベートの時間を確保できるようなります。これにより、精神的、身体的な不調などの長時間労働によるリスクを避けることができます。一方、会社側は、限られた時間内で成果を出す必要があります。したがって、労働生産性を向上させることへの関心が高まり、労働生産性向上につながると考えられます。
非正規雇用の待遇向上
同じ企業内における正規雇用労働者と非正規雇用労働者間の、不合理な処遇差を解消する取り組みのことです。これにより、どのような雇用形態を選択しても納得できる待遇を受けることができるため、多様な働き方を自由に選択できるようになります。
また、非正規労働者にも「正当な処遇がなされている」という気持ちが起こり、モチベーションだけではなく、労働生産性の向上につながる可能性があります。
さらに、正社員化や待遇の改善に取り組んだ企業には、「キャリアアップ助成金」が助成されます。
この目的は非正規雇用労働者のキャリアアップを促進することであり、労働者の能力向上により事業の生産性が向上することが期待されます。
働き方改革を実現するための取り組み
「働き方改革の目的」を実現させるために、実際に以下のような取り組みが行われています。
働き方改革関連法の施行
働き方改革関連法の正式名称は、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」といいます。この法律は、大企業が2019年4月、中小企業は2020年4月から適用が開始されました。主な施策は以下になります。
罰則付きの時間外労働の上限規制
時間外労働の上限は、原則として月45時間・年360時間と定められていています。
特別な事情があり特別条項付き36協定利用時でも、月100時間・年720時間以内の規定があり、この時間を超えた場合「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」の罰則が科せられます。
年次有給休暇の確実な取得
労働者に年5日間の有給休暇を確実に取得させることを義務付けられており、違反した場合は30万円以下の罰金が科せられます。
労働時間の客観的な把握
労働者の労働時間を、客観的な記録に基づいて把握することを義務付けます。
同一労働・同一賃金の原則の適用
雇用形態の違いだけで生まれた待遇(基本給など)差を改善します。
勤務間インターバルの普及促進(努力義務)
退勤後から翌日の出社時までに9時間から11時間程度の時間的間隔を設けるよう努めることを義務付けます。
高度プロフェッショナル制度
専門知識を要する特定の専門職に従事し、一定の年収を有する労働者に対して、労働時間や割増賃金等の規定を適用除外とします。
フレックスタイム制の拡充
3ヶ月以内の一定期間の総労働時間の範囲で、労働者が各労働日の労働時間を自由に決定できます。元々は期間が1ヶ月以内であったのが、3ヵ月に拡張されました。
産業医、産業保健機能の強化
産業医の活動環境を整備します。また、産業医に関する情報を労働者に適切に開示することを義務付けます。
残業の割増賃金率の引上げ
1ヶ月に60時間を超える時間外労働について、割増賃金率が25%から50%に引き上げられました。
テレワーク、 副業・兼業の推進
厚生労働省は、2018年1月に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を策定し、モデル就業規則を改定しました。この改定により、「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる」と変更されました。
本業務に著しく支障が出たり、会社の秩序を乱すようなことがなければ原則、副業・兼業は認めるべきだと考えられます。
>>複業・副業のメリットについて詳しく知りたい方はこちらをご覧ください<<
>>複業・副業のデメリットについて詳しく知りたい方はこちらをご覧ください<<
シニア層の活用
現在の日本では、日本平均寿命が増加傾向にあり、少子高齢化も深刻化しているため、シニア層の労働人口を確保することが必要になっていくでしょう。
実際、高齢者の中には「アクティブシニア」と呼ばれる元気で就労意欲にあふれた人も多くいます。このような背景から、意欲のある限り年齢にかかわりなく働くことができる社会の実現が目指されています。
企業側としても、アクティブシニアが講師となって社内研修を実施し、従業員のスキル向上、人材育成になどの高齢者の豊富な経験や知識を活かすことで生産性も向上につなげることができるかもしれません。
このように、労働人口が減少するであろう日本にとっては、シニア層の経験やスキルを活かすことで、労働生産性を向上させる必要があるでしょう。
そのため、企業はシニア層の人材が安心して働くことができるように、定年延長や継続雇用制度の導入になどの社内制度を整備することが大切です。
さらに、企業が高齢者の雇用を促進させることで、「独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構」「労働局・ハローワーク」から以下のような支援を受けることができます。
詳しく知りたい方は、厚生労働省の資料「高齢者の雇用促進に向けて」をご覧ください。
独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構
- 定年制度、継続雇用制度の見直しを行う場合の助成金
- 高年齢者向けの機械設備の導入や雇用管理制度の整備等を行う場合の助成金
- 50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用に転換させた場合の助成金
- 賃金・退職金制度を含む人事管理制度の見直し、職場改善等の条件整備にあたっての相談・援助
労働局・ハローワーク
- 新たに高齢者を雇い入れる場合の助成金
- 高齢者を募集する求人情報の公開
働き方改革の懸念点
ここまで、働き方改革によって期待されている未来について説明しました。
しかし、悪い影響は全くもたらされないのでしょうか?
以下では、企業側と従業員側からみた働き方改革の懸念点について説明していきます。
企業側から見た働き方改革の懸念点
本業がおろそかになる
残業がなくなり労働時間が短縮されることで、従業員の生産性が上がる可能性がある一方、仕事の品質低下や未完業務が発生する可能性があります。
そのため、厚生労働省は、中小企業・小規模事業者向けに労働時間の設定の改善を促進されるように「時間外労働等改善助成金」などの制度を充実させています。
情報漏えいのリスクになる
顧客情報や仕事のノウハウなどが他社に漏れるリスクが高まる可能性があります。
特に、競合他社や同業界に自社の情報が漏れることを懸念している企業が多いのではないでしょうか。
競業、利益相反になる
自社と競合状態にある会社で副業・兼業をされた場合、自社の利益を阻害するリスクがあります。
複数の職場で働く人の労働時間を通算するのは難しい
労働基準法第38条によると、社員が自社と副業・兼業先の両方で雇用されている場合には、それらの合計労働時間を通算する必要があります。合計労働時間が増えれば結果的に長時間労働につながり、それが法定労働時間を超えた場合には割増賃金を支払わなければなりません。
副業・兼業による過労によって従業員が健康を害したり、業務に支障をきたしたりする
合計労働時間・労働量が増えることで、健康を害する可能性があります。そして、労働者の体調不良により業務生産性が低下する可能性が考えられます。これを防ぐために厚生労働省は、企業と労働者の話し合いや、勤務時間や健康診断などの記録を付けることなどを勧めています。詳しくは、厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」をご覧ください。
従業員側から見た働き方改革の懸念点
残業代が減る
会社の残業ゼロ制度が進むと、残業代を生活費や住宅ローンの支払いに充てている人は、生活が厳しくなると考えられます。
能力格差が生まれる可能性がある
働き方改革により多様な働き方が推進されることで、「年功序列型」から「成果主義型」の人事評価制度にシフトしていくと考えられます。これまで可能だった「時間管理」や「対面での人事評価」が難しくなったからです。成果主義とは、個々の従業員の仕事の成果や能力に応じて、給与や昇格などの待遇を決定する人事制度になります。
また、成果主義は「年齢」「学歴」「人付き合い」など関係なく仕事の能力が高い人にレベルが高い仕事が割り当てられるため、人材を適材適所に配置することで労働生産性を向上させる効果が期待されます。
そのため、仕事の能力が高い人にはレベルが高い仕事が優先的に割り当てられ、仕事の能力が低い人にはレベルの高い仕事が割り当てられる傾向が低くなり、能力格差が拡大する恐れがあります。
副業・兼業による過労によって健康を害したり、業務に支障をきたしたりする
働き方改革が進み、従業員が副業などをする場合、合計労働時間・労働量が増え、従業員は健康を害する可能性があります。そのため、企業だけでなく労働者自身も健康を管理するために注意する必要があるでしょう。
保険関連
雇用保険などについては、1週間の所定労働時間が短い業務を複数行う場合には、適用がない場合があります。また、労災保険は本業から副業先への移動途中の災害は、通勤災害補償の対象となりますが、副業先の労災事故で働けなくなっても、本業分の収入は補償されないため注意が必要です。
働き方改革の実態
実際に世の中では、働き方改革をどのように意識し、行動を起こしているのでしょうか?
世論調査と、働き方改革に向けて実際に行動を起こした企業の事例を紹介します。
副業・複業についての意識調査(パーソルキャリア株式会社)
パーソルキャリア株式会社のWebメディア「d’s JOURNAL」編集部は、20代・30代のdoda会員329名と、企業の人事・採用担当者を対象に「副業に関するアンケート」を実施しました。
アンケートの結果によると、70%超の企業が副業を基本的には認めていないことがわかりました。
また、懸念事項については、最も多かったのが「労働時間の管理」、2番目に「本業に支障をきたす」、3番目に「守秘義務・セキュリティへのリスクが高い」ということが挙げられています。
一方、「今後副業を推進したいか?」という項目では、企業の過半数が前向きな回答をしていることがわかりました。
社員向け調査結果
次に、社員向けに実施した副業に関するアンケートの結果によると、男女・年代別共に傾向に大きな差はなく74.2%の人が「副業をやってみたい」と回答し、副業に対する興味が高いことがわかりました。
「副業をしたい」と回答した人に理由を聞くと、上記のような結果になりました。
最も多く挙がったのが、「お金が欲しい・収入を増やしたい・生活の安定」、2番目に「本業の給料が足りない・少ない」、3番目に「経験を広げたい・スキルを身に付けたい・自己啓発・好奇心」が多かったです。その他にも、リスクヘッジや老後の蓄えといった未来を見据えた理由もありました。
このように、副業をしたいとい理由は、金銭面だけでなく、自身の成長を目的としている人も多いことがわかります。成長を目的とする背景には、新たな業種で可能性を探ってみたいことや、自身の市場価値を高めたいことなど様々な理由があると考えられます。
「あなたは副業を行っていますか?」の質問で、約70%の社員が副業を経験したことがないことがわかりました。しかし、副業経験がない人のうち約51%は「いつか副業をしてみたい」と回答しています。
ではなぜ、副業をしていないのでしょうか?
副業をやらない理由として最も多かったのは、「金銭的に困っていない・給与がある」で約22%でした。しかし、それ以外の約78%は、「休みがない・時間がない」「プライベートを大切にしたい(家族との時間)」などの副業をする時間や余裕がないといった理由でした。
このように、副業をやらないのではなく”やれない人”が多いことが窺えます。
副業経験者向け調査結果
次に、20代・30代の副業をしている(していた)人の仕事内容を調査した結果、様々な業種で副業をしていたことがわかりました。
最も人気だったのは、接客業(コンビニ・飲食業・カラオケ・ボーイズバー・ラウンジ)でした。
オークション、アンケートモニターといった個人で比較的簡単にできるものも人気が高いようです。
また、投資やアフェリエイト、ライターといった趣味、スキルを活かしたものも副業として人気が高かったです。
働き方改革の事例
働き方改革に向けて実際に行動を起こした企業の事例を3つ、以下に紹介します。
ヤフー株式会社
ヤフー株式会社は、世の中を驚かせるサービスづくりには、自由な発想を生み出すための働き方が重要と考えており、複業可能なだけでなく、フレックスタイム制や「どこでもオフィス」という場所を選ばずどこでも仕事ができる制度など、多様な働き方を実践しています。
大学の特別講師やスノーボードのインストラクターなど業務には直接関係のない複業を行っている人もいるようです。
事前申請制で、社内のWebシステムで申請。期間や内容、収入、本業に支障がないかどうかを伝えた上で、許可が下りるそうです。
株式会社メルカリ
株式会社メルカリは、「働き方」が非常に寛容的な会社として注目されています。
複業を推奨している他、フレックスタイム制など、社員が働きやすい仕組みを取り入れています。
複業については、プライベートの時間を使って優秀な才能を活かして社会に貢献するため、またプライベートの充実をサポートするためという目的で解禁されています。
また、育休制度は対象男性社員の約90%が取得しており、非常に高い利用率を誇っています。
株式会社サイバーエージェント
株式会社サイバーエージェントは、2015年2月より、複業を解禁しています。ただし、事前申請が必要となってます。
また、当初は本業にプラスになることであったり、本業の影響にならない複業と条件を設けていましたが、現在は「会社に迷惑をかけないこと」という条件のみ設けています。
この複業解禁は、「就業時間以外の社員の時間は社員のものであり、会社がどうこう言うべきではない」という考えから生まれました。
このように、働き方改革を実践している企業は多様な働き方を推奨し、社員の生活の質を向上させることや社員に様々な経験をさせることで、自社のサービスの成長に繋げていることがわかります。
もっと多くの事例を知りたい方は働き方改革における企業の事例一覧をご覧ください。
まとめ
働き方改革には、個々の状況に合わせて、多様な働き方を選べるようになるという利点がありました。また、労働時間や待遇、休暇の取得などが見直されているので、仕事に対する精神的、身体的苦痛は改善されていくと考えられます。
一方、従業員側の懸念点として、残業代が減ることや能力格差が生まれる可能性があることを挙げました。
そこで、これからの時代は、主体的に自分のキャリアを考え、形成していくことが重要です。
複業・副業のメリットは、収入の増加だけではありません。自分がやりたい仕事に挑戦したり、スキルや経験を得たりすることを通して、新しいキャリアを形成することができます。
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