テレワークや在宅勤務が注目されている昨今、導入を検討している企業も多いのではないでしょうか。この記事では、現在のテレワークの導入状況から、在宅勤務制度の具体的な導入方法や導入企業の事例までまとめて解説します。
在宅勤務とは
在宅勤務とは、企業に雇用されながらもICT(情報通信技術)を駆使して自宅で就業する形態のことを指します。
また、在宅勤務は「テレワーク」の中に含まれる働き方の1つです。
以下の記事では在宅勤務について詳しく紹介しているので、興味のある方はご覧ください。
テレワークとは
続いて、在宅勤務を含む働き方であるテレワークについて概観します。
日本テレワーク協会によると、テレワークとは「ICTを活用した場所や時間にとらわれない柔軟な働き方」と定義されています。
また、テレワークにはいくつか種類があります。
企業に雇用されながらテレワークを行う場合は、「在宅勤務」「モバイルワーク」「サテライトオフィス」のいずれかの形態をとります。一方、企業と雇用関係を持たずに個人事業主としてテレワークを行う場合は「在宅ワーク」や「SOHO」、「内職副業型勤務」のいずれかに分類されます。
以下の記事ではテレワークについて詳しく紹介しているので、興味のある方はご覧ください。
テレワーク・在宅勤務のメリットとデメリット
テレワーク・在宅勤務には様々なメリット、デメリットがあり、導入するべきかどうかは業種や職種によりけりです。
まず、企業がテレワーク・在宅勤務制度を導入した際の代表的なメリットとしては以下のものが挙げられます。
- ワークライフバランスの拡充
- 業務効率や生産性の向上
- コストの削減
- 優秀な人材の確保
- 企業のイメージアップ
- 「次世代育成支援対策推進法」への対応
- 事業継続性の向上
一方、代表的なデメリットとしては以下のものが挙げられます。
- 環境整備コストがかかる
- 情報漏えいのリスクが高まる
- 部下のマネジメントがしにくい
- 人材育成がしにくい
ここまでご紹介したテレワーク・在宅勤務のメリットとデメリットはそれぞれほんの一部です。以下の記事ではメリットとデメリットについて詳しく紹介しているので、興味のある方はご覧ください。
>>テレワーク・在宅勤務のメリット・デメリットについて詳しくはこちら<<
テレワークの導入状況
近頃、注目を集めるテレワークですが、実際のところどの程度導入されているのでしょうか。総務省の発表している「令和元年通信利用動向調査報告書」を元に日本のテレワークの実態を見てみましょう。
テレワークの導入推移
上記のテレワーク導入推移を見ると、「導入している」企業の割合は年々増加しており、直近の令和元年(2019年)の時点では、「導入している」「導入していないが今後導入予定がある」を合計した企業の割合は29.5%に達しています。
産業分類別のテレワークの導入状況
上記の産業分類別のテレワーク導入状況の推移について、令和元年(2019年)時点での導入状況を見ると、「金融・保険業」「情報通信業」ではいずれも40%を超えている一方で、「運輸業・郵便業」「サービス業、その他」でのテレワーク導入率は20%を下回る結果がでています。テレワーク導入状況には産業ごとにばらつきがあり、テレワークを導入するには業種によって適不適があることがわかります。
従業員規模別のテレワークの導入状況
上記の従業者規模別のテレワーク導入状況を見てみると、従業員規模に関わらず、年々テレワークの導入が進んでおり、特に従業員数が2,000人を超える企業でテレワークの導入が盛んに行われています。
テレワーク導入形態
上記の「テレワークの導入形態の推移」を見ると、令和元年(2019年)時点で「モバイルワーク」は63.2%、「在宅勤務」は50.6%、「サテライトオフィス勤務」は16.4%の企業に導入されています。
雇用型テレワークは種類を問わず、いずれも増加傾向がみられますが、特に「在宅勤務」の導入率は前年と比較して大きく伸びています。
テレワークの導入目的・導入が加速する背景
上記の「テレワークを導入する目的」を見ると、テレワークの導入目的は多種多様ではありますが、特に「業務の効率性の向上」(68.3%)「ワークライフバランスの向上」(46.9%)「移動時間の短縮・混雑回避」(46.8%)を目的としてテレワークを導入する企業が多いことがわかります。
また、「長時間労働対策」「ワークライフバランスの向上」「事業継続に備えて」を目的として導入する企業は前年比で大きく増加しています。
テレワークを導入しない理由
テレワークの導入が増えているといっても、2019年時点で「導入していない・導入予定がない」企業の割合は70%を上回っています。そこで、テレワークを導入しない理由にも目を向けてみましょう。
上記の「テレワークを導入しない理由」を見ると、「テレワークに適した仕事がないから」が71.3%と高い値を示しています。また、その他の理由としては「情報漏洩が心配だから」「業務の進行が難しいから」という理由が上位を占めています。
今後は、テレワークに適した仕事と適していない仕事とで、導入率の差が一層開いていくかもしれません。
企業が定めるテレワーク導入の条件
上記の「テレワーク普及のために必要な要素の推移」を見ると、企業がテレワークを導入するには「労務管理の適正化」48.2%に次いで、「執務環境の整備」(34.8%)、「情報通信システムの高度化」(31.5%)が必要であることがわかります。つまり、テレワークを始めるにあたり、テレワークに応じた制度設計や環境整備を新たに行わなければならないのです。
テレワーク・在宅勤務制度を導入する方法
テレワークの導入状況を概観したところで、いよいよテレワーク・在宅勤務制度の具体的な導入方法を見ていきましょう。大まかな流れとしては8ステップあります。
(1) テレワーク・在宅勤務制度の導入目的を整理し、導入の必要性を十分に検討する
最初のステップは、テレワーク・在宅勤務制度を本当に導入するべきか否かをしっかりと検討することです。
導入に失敗する代表的なパターンは、流行りに乗ってなんとなく導入するケースです。
先行事例を参考になんとなくで導入を進めていくと、実は会社にまったく合っていなかったり、会社の一部にしかなじまない制度になるリスクが高まります。
そのため、なぜテレワーク・在宅勤務制度を導入する必要があるのか、導入して何を実現したいのかといったビジョンの明確化が重要です。
また、従業員と経営層側で導入する目的が異なる可能性があります。ここでの導入目的は今後の全体方針にもなるため、導入目的がばらばらのままでは全社的に導入を推し進めていくことは難しくなります。立場の違いに関わらず社員の共通の理解を生み出せるよう注意しながら目的を決定しましょう。
(2) テレワークを推進するプロジェクトチームを結成する
導入目的を定めたら、テレワークの導入を推進するプロジェクトチームを結成します。
テレワークを始めることは比較的容易ではありますが、規模が大きい企業が導入する場合は混乱を招きかねません。そうならないためにも、社内体制を盤石にしておく必要があります。
プロジェクトチームは、企業の経営方針の策定に携わる経営企画や、テレワークに関連する制度や施策を担当する人事・労務部門の代表を中心に編成しましょう。
テレワークが各部署に及ぼす影響を考慮し、一部の部署が導入によって不利益を被らないように、できるだけ社内を横断できるメンバーを選出します。
また、プロジェクトチームのリーダーは役員クラスのマネジメント層が最適です。本格的な導入には強い権限を保持している人が推し進めていかなければ、スムーズに導入していけません。
(3) テレワークを導入する対象範囲を決定する
いきなり社内全体で一斉にテレワークを導入するのではなく、段階的に導入を広げていくと成功しやすいです。例えば、まずはじめは週1から実施して問題なさそうであれば、週2、週3と増やしていったり、出社しなくても行える業務のみをまずはテレワークにしたりするといったように、徐々に導入していきましょう。
そのためには事前に「対象者」、「対象業務」、「実施頻度」といった対象範囲を明確にする必要があります。
対象者
対象者を選定する際には、テレワークの導入でより多くのメリットを得られる従業員(例えば育児と仕事を両立させている従業員)や、エンジニアやWebデザイナーなどの出社せずともPCさえあれば業務可能な職種の従業員を選定すると成功しやすいです。他にも、社内のルールに精通し規律を遵守している従業員を選定すると、実際にテレワークを体験してどういった点に注意すればいいのか、どういうルールで運用していくかを決めやすくなります。
また、対象者を選定する際、社内で不満を生じさせないために明確な基準を設けておく必要があると同時に、就業規則に規定がある場合でも実際にテレワークを実施するか否かは従業員本人の意思を尊重しなければなりません。
対象業務
前述したように、エンジニアやWebデザイナーなどの出社せずともPCさえあれば業務可能な職種はテレワークに向いています。
しかし、出社が必要な職種だからテレワークに向いていないというわけではなく、業務単位の小さなくくりで見ていくとテレワークが可能な場合もあります。
例えば、資料作成や顧客とのメール・チャットでのやり取り、企画や調査などは出社せずとも可能な業務です。
まずはテレワークを導入できる業務とできない業務とで棚卸しを行い選定してみてください。
実施頻度
テレワークをどの程度の頻度で実施するかは最初のステップで決めた導入目的や全体方針に合わせて決めていきます。
目安として、導入当初は週1,2日程度をおすすめします。週1,2日程度であれば、体制を大きく変更する必要もなく、従業員も余裕をもって制度に慣れていけるからです。
試験的に導入して得られた効果や課題を洗い出し、改善していくことでテレワークに適した体制が整っていきます。そこから少しずつ実施頻度を増やしていくと導入時の混乱を最小限に抑えられます。
以上を踏まえ、「対象者」、「対象業務」、「実施頻度」の対象範囲を確定したら、テレワーク導入に必要となる経費を計算しておきましょう。
(4)テレワーク導入の際に課題となる点を洗い出す
続いて、プロジェクトチーム内でテレワークを導入する際に障壁となる点を全て洗い出しましょう。
課題の例としては以下のような点が挙げられらます。
- 就業規則に関わる社内制度の見直し
- 勤怠管理、労働時間制度の見直し
- 人事評価制度の見直し
- 手当、給与の見直し
- ICT環境の準備とセキュリティ対策
- 在宅勤務時のコミュニケーション手段といった日常での仕事の進め方
- 労働組合や従業員の考え方
- 在宅勤務・テレワークを推進するための風土の醸成
(5)テレワークに関する取り決めを作成する(導入計画の策定)
いよいよここから、テレワークの導入計画を具体的に定めていきます。
総務省の「情報システム担当者のためのテレワーク導入手順書」によると、実施スケジュールに盛り込むべき内容としては、次が挙げられています。
- プロジェクト計画書作成
- 制度・ルールの確認
- テレワーク環境構築
- テレワーク実施者及びその上司・同僚への研修・セミナーの開催
- テレワーク検証
- 実証事業終了後の継続計画の策定・報告
特に、テレワークや在宅勤務に関する規定が就業規則にない場合は、テレワーク・在宅勤務制度に対応した就業規則を必ず作成しなければなりません。その中でも労務管理方法を明確化することは従業員の不安を取り除くことにもつながるため、きちんと定めておきましょう。
ただし、従業員が10名未満の場合は、そもそも就業規則の法的作成義務はないため必要ありません。しかし、トラブルなく円滑にテレワークを実施していくためにもルールづくりをしておくことをおすすめします。
以下の記事では、テレワーク・在宅勤務時の就業規則に規定するべき規定内容についてまとめていますので、興味のある方はご覧ください。
>>在宅勤務・テレワークの就業規則の規定内容について詳しくはこちら<<
(6) ICT(情報通信技術)環境整備およびセキュリティ対策を実施する
計画を定めたらスケジュールに沿ってICT環境の整備と、セキュリティ対策を行っていきます。
ICT環境の整備
テレワークに必要不可欠となるICT環境の整備手順や求められるICT環境の条件についてご紹介します。
テレワークに利用されるICT環境の種類
まずはテレワークに利用される4つのシステム方式をご紹介します。
リモートデスクトップ方式
リモートデスクトップ方式とは、オフィスに設置されたPCのデスクトップ環境を、別のPCやタブレット端末等で遠隔から閲覧及び操作できるシステムです。
この方式のメリットは、情報漏洩が起きにくいという点です。というのも、リモートデスクトップ方式では、オフィスの端末を遠隔操作することでオフィス端末に情報が保存されていくため、社外の端末に情報が残らないからです。情報漏洩のリスクを最小限に留められるのはリモートデスクトップ方式の大きな強みになります。
一方、リモートデスクトップ方式のデメリットは、オフィス端末を常に起動しておかなければならず、リモートデスクトップの利用者数に比例して電気代が膨れ上がるリスクがある点です。ただし、クラウド技術と組み合わせてオフィス端末の電源を遠隔操作することで、ある程度電気代の削減が可能です。
仮想デスクトップ方式
仮想デスクトップ方式とは、サーバが提供する仮想デスクトップに、手元にあるPCから遠隔でログインして利用するシステムです。
一見、リモートデスクトップ方式と同じ方式にも思えますが、サーバにアクセスして利用する点で異なります。
仮想デスクトップ方式のメリットは、作業情報はサーバに保存され、社外の端末にデータは残らないので情報漏洩が起きにくい点です。
デメリットとしては、コストと職種が限定されることの2点です。
コストに関しては、オフィス内に仮想デスクトップを管理するサーバやVPN装置等の設置が、社外専用端末にはVPNソフトのインストールが必要であることから、導入にコストがかかります。
※VPNとはvirtual private networkの略称で、第三者の侵入を防ぎデータの盗聴や改ざんなどに対応した安全なネットワークを構築する技術のこと
また、仮想デスクトップ方式では導入したサーバのリソースを配分して利用するため、マシンパワーを要する専門職とは相性が悪く、利用できる職種は限定されてしまいます。
クラウド型アプリ方式
クラウド型アプリ方式では、オフィス内外や利用端末の場所を問わず、Web上からクラウド型アプリにアクセスし、どこからでも同じ環境で作業ができます。
この方式のメリットは、社内システムに新しくシステムを導入する手間がほとんどかからない点です。オフィスに設置された端末がインターネットに繋がっている場合は、アプリにアクセスするライセンスを取得するだけですぐに利用できます。
この方式のデメリットは、アプリの更新に手間がかかる点です。また、ウェブブラウザを利用するため、マシンのリソースがある程度なければそもそもの運用が難しくなってしまう点もデメリットとなります。
会社PCの持ち帰り方式
会社PCの持ち帰り方式とは、その名の通り、会社内で利用しているPCを社外に持ちだし、VPN経由で業務を行う方式です。
この方式は、比較的導入しやすいというメリットがありますが、社内の情報が入ったPCを外部に持ち出すことになるため、上記に示した3つの方式よりも情報漏洩のリスクが断然高いです。そのため、社員にセキュリティに関する教育を施し、従業員1人1人にセキュリティポリシーの習熟を図ることはもちろん、HDDの暗号化や複雑な認証要求の設定、覗き見防止フィルターなど、PC自体のセキュリティ対策を盤石にしておく必要があります。
また、セキュリティ対策以外にも、会社のPCを私的に利用しないように、制限する機能を予め施しておく必要があります。
コミュニケーションツール・労務管理ツール・情報共有ツール
上記に示した4つのシステム方式のほかにもICT環境の整備をする必要があります。というのも、テレワークには従業員間のコミュニケーションや労務管理の難しさなど様々な問題があるからです。
オフィス勤務時と同様にスムーズに業務を進めるためには、チャットツールやWeb会議システム、勤怠管理システムといったITツールを利用する必要があります。
それに加えて、PCのウイルス感染を防ぐため、ウイルスソフトも事前にインストールしておきましょう。
下記の記事には、テレワーク・在宅勤務で役立つITツールなどを詳しく紹介していますので、興味のある方はご覧ください。
>>テレワーク・在宅勤務で活躍するITツールについて詳しくはこちら<<
なお、これまで紹介してきたテレワークの方式や管理ツールを導入するにあたっては、現在の従業員の利用しているICT機器や、業務内容、コスト、関係部門間の調整など様々な事項を検討して決定する必要があります。
そこで、事項ではICT環境を実際に導入するにあたって踏むべき手順をご紹介します。
ICTを導入する手順
- 現在のICT環境の確認
テレワークを導入する際に、PCやスマートフォンなどの業務用端末を変更しない限り、現在の端末を活用したテレワークを実施することになります。
そのため、まず現在従業員が利用する端末や企業内ネットワークを把握するところから始めましょう。
- テレワーク環境の方式選択、各種ツールの選択
先程ご紹介したリモートデスクトップ方式や仮想デスクトップ方式といったシステム方式から自社に合った方式を選択します。また、仕事の円滑化を図るために導入するべき各種ツールを選択します。
- 導入に必要な期間の確認
何を導入するべきか決定したら、導入にかかる期間を具体的に定めます。
- テレワーク実施中の業務の停滞箇所・要調整箇所の確認
次に、テレワークの実施に際して、一時的に停滞してしまう業務や調整が必要な業務を洗い出し、対策を練ります。
- 導入期間の全社周知
導入の準備が揃ったらテレワークを導入することを社内に周知しましょう。いきなりテレワークを導入すると社内で混乱が生じる可能性があり、導入がスムーズに進まなくなってしまうこともあります。そのため導入する事実は前もって全社に必ず周知徹底しましょう。
また、この段階で、対象となる社員にツールの利用方法やセキュリティポリシーの研修を実施しましょう。
- システムを導入し、改善を継続
いよいよシステムを導入したらテレワークの導入は完了です。
ただし、実施しながら見えてくる課題も多いので、随時課題を洗い出し、改善を続けましょう。
セキュリティ対策
テレワークでは、業務に関わる情報を社外に持ち出すことになるため、会社の情報資産が外部に流出してしまうリスクがでてきます。それゆえに、情報セキュリティ対策を徹底して施すことはテレワークを導入する中でも極めて重要な事項として位置づけられます。
企業は保護するべき機密性の高い情報資産の洗い出しを行った上で、テレワーク時のセキュリティ上の脅威や起こりうる問題を把握することが重要です。
以下では、情報セキュリテイ対策として確認しなければならないポイントをご紹介します。
- 情報セキュリティ保全対策
テレワークを行う全ての社員が情報漏洩のリスクを負っているので、定期的に情報セキュリティに関する教育を行い、社員の情報セキュリティへの関心を高めておきましょう。
また、万一情報漏洩が生じた際にも素早く適切な舵を取れるよう、社内の連絡体制を整備しておく必要があります。
一方で、テレワークを利用する社員は、会社の情報資産を管理する責任が自身にあることを従業員一人ひとりがしっかりと自覚し、情報セキュリティに関する社内の取り決めを遵守しましょう。自身が普段使用する端末のセキュリティを定期的に点検しておき、万一情報漏洩が発生した場合の対応策を社内で確認しておきましょう。
- 業務用端末の紛失・盗難に対する対策
端末を社外に持ち出さないことがセキュリティ対策上最も有効ではありますが、やむを得ず端末を持ち出し、なおかつ端末の紛失・盗難が発生したときのために、システム管理者は社外で利用する端末にセキュリティ対策を施しておいてください。
例えば、端末の所在と利用者を管理することはもちろん、端末自体にパスワードの設定やHDD/SDDの暗号化といったセキュリティ対策を行うことが管理者には求められます。
- マルウェア対策
マルウェアとは、不正かつ有害なコードやソフトウェアの総称で、プログラムの動作を妨げることで有名な「ウイルス」もマルウェアの1つに含まれます。
マルウェアに感染すると、PC内のファイルの消失や外部流失といった被害が生じる可能性があります。
端末がマルウェアに感染している場合、起動や動作速度の遅延ないし停止が生じたり、突然データが消失したりするといった不具合が発生するので、こうした兆候が見られたら、マルウェアへの感染を疑うようにしてください。
マルウェアに感染しないようにするためには、端末に適切なウイルス対策ソフトをインストールしておきましょう。また、OSやソフトウェアの更新を随時行って、最新のバージョンを維持しておくことや、不必要なソフトウェアの使用・閲覧を制限しておくことも有効です。
- 不正アクセス対策
端末に不正アクセス・なりすまし行為を防止することも重要です。
不正アクセスへの対策としては、認証強化や暗号化、シンクライアントの導入、セキュリティ対策機器の設置、ソフトウェアのこまめなアップデートなどが挙げられます。
従業員は認証パスワードの管理を徹底するとともに、貸与された端末は社内のルールを逸脱しないように利用しましょう。
- 外部サービス利用に対する対策
チャットツールとしてSNSを利用したり、ファイル共有用のパブリッククラウドサービスを利用したりすると、情報漏洩が起きてしまう恐れもあります。そこで、外部サービスを利用する際は、アプリ利用にあたってのガイドラインを遵守すると同時に社内ルールに定められた範囲に利用を制限しましょう。
上記に示したセキュリティ対策を構築する際には、セキュリティ対策の方針を定めた情報セキュリティポリシーに基づいて実行しましょう。
情報セキュリティポリシーの内容には定められた形はありませんが、盛り込むべき内容としては「企業の基本方針」や「基本方針を実現するために必要となる規則」、「セキュリティ対策を整備する手続きや対象範囲」が挙げられます。
以上を踏まえると、情報セキュリティ対策上では、人為的な対策と技術的な対策の双方を拡充し、「ルール」と「技術」の両面で抜かりのない対策を行うことがポイントとなるといえます。
また、シェアオフィスやカフェなど外で業務を行う際だけでなく、自宅でともに暮らす家族からも情報漏洩の可能性はありえます。
のぞき見防止のシートを貼ったり、家族が立ち入らない部屋で業務を行ったりすることで、ある程度身内からの情報漏洩は防げます。
(7) テレワーク・在宅勤務制度導入のための教育、研修を実施する
環境の整備を終えたら、社員に対してテレワーク・在宅勤務に関する研修を実施しましょう。
研修に盛り込むべき内容は、
「目的と必要性」「テレワーク・在宅勤務時の体制」「利用するツールの操作方法」です。
「目的と必要性」を盛り込むべき理由は、経営者及びプロジェクトチームだけでなく、テレワーカーやその上司、同僚の社員全員が共通した理解のもとでテレワーク・在宅勤務を導入しなければ、問題が発生した際に社員全員がスムーズに対応できなくなるからです。
そのため、導入するに至った経緯やその目的を社員全員にきちんと説明するようにしましょう。
次に「テレワーク・在宅勤務時の体制」を説明する際には、社内ルールやテレワーク・在宅勤務を行う体制、どのように実施するのかといった内容を盛り込みましょう。
テレワーク・在宅勤務時の体制を説明しておくと、社内での運用に関する疑問を解消できるので、労使間での認識の齟齬を未然に防止できます。
「利用するツールの操作方法」に関しては、ツールの操作方法だけでなく、セキュリティ対策上の注意点についての説明も行い、円滑な運用と情報漏洩の防止を図ります。
(8) 導入したテレワーク・在宅勤務の効果測定と評価を行う
以前に決めた実施頻度や対象範囲に従ってテレワーク・在宅勤務を実際に導入し、その効果をアンケート調査やグループインタビュー、ヒアリングなどの方法で調査していきます。
その際、最初に定めた「テレワーク・在宅勤務を導入する目的」に沿った評価を行っていきましょう。
評価の方法としては、質的評価と量的評価の2軸があります。
まず、質的評価の項目としては次が挙げられます。
- 情報の共有やワークフローといった業務改革
- 顧客満足度や社員のパフォーマンスといった業務評価
- コミュニケーションや会議の質
- 仕事のしやすさやモチベーションといったワークの質
- 健康状態や生活への満足度
- 仕事に対する満足度
一方、量的評価の項目としては、以下のようなものが挙げられます。
- 顧客対応回数や新規契約獲得数などの顧客対応
- データ処理数や報告書の作成件数といった情報処理能力
- オフィス面積や紙消費量、電気代といったコスト
- 移動にかかる時間や費用といった移動コスト
- 情報通信機器や各種サービス利用費などのICTコスト
- 新たに獲得した人材の数や離職者数といった人材面
質的評価はテレワーク・在宅勤務の導入、拡大の判断に活かせる一方、量的評価はテレワーク・在宅勤務の実態を明らかにできます。
本格的に導入したら、継続して評価を行いPDCAサイクルを回し続けましょう。
問題なく運用ができるようになったあとも、生産性の向上から高収益化、競争力の拡大、低コスト化や優秀人材の獲得など、より高い目標を設定することによって、テレワーク・在宅勤務の効果を高めていけます。
テレワーク・在宅勤務制度を導入する際の留意点
テレワーク・在宅勤務を導入する際の留意点は、導入後のトラブル発生を防ぐための社内ルールづくりや、社員を適切に管理するため労務管理方法、情報漏洩を防ぐためのセキュリティ対策、テレワーク・在宅勤務を会社に馴染ませるための雰囲気作りなど多岐にわたります。
特に完全なオフィス勤務から初めてテレワーク・在宅勤務に変更した場合、従業員の労務管理を行う方法も変更し、就業規則に規定しなければなりません。
特に変更が必要な点としては、以下の通りです。
- 勤怠管理
- 労働時間制度
- 評価方法
- 手当
- 給与、賃金
- 労災
テレワーク・在宅勤務の場合、従業員は上司の目の届く範囲にはいません。そのため、労働の実態を把握しにくいといった問題があります。従業員に適正な評価で給料を支払うためにも、上記の項目を中心に変更しておきましょう。
下記の記事ではテレワーク・在宅勤務を導入するにあたり、注意するべきポイントを項目別に解説しているので、興味のある方はご覧ください。
企業のテレワーク・在宅勤務制度導入事例
他社のテレワーク・在宅勤務制度導入事例を真似すれば自社も問題なく導入できるというわけではありません。会社になじむように導入するためには当然それぞれの企業に応じた個別の対策が必要となるからです。
ただし、テレワーク・在宅勤務の導入事例を参考に導入方法について理解を深めておくことには意味があります。
厚生労働省が2020年1月に開設した「テレワーク総合ポータルサイト」で、テレワークを導入した例として「味の素株式会社」を紹介しています。
味の素は、テレワークの導入が難しいとされる製造業でありながら、経営トップを中心に多様な人材の活躍を目的にテレワーク導入を推進しています。
具体的には、集中できる環境かつセキュリティが十分に確保されている場所であればどこでも社員の勤務を認める「どこてもオフィス」という制度を導入しています。この制度では、最大週4日、30分単位での申請が可能です。
味の素では、「どこでもオフィス」の導入にあたり、「ルールの策定」「通信環境整備」「風土醸成」の3点の要素に力を入れています。
たとえば、「通信環境整備」については、社員全員に軽量PCを支給した上で、サテライトオフィス会社と契約をし、全国140拠点のサテライト環境を確保するといった取り組みを行っています。また、「風土醸成」については、管理職に週に1度のテレワーク利用を促し、会社全体でテレワークを利用しやすい雰囲気を醸成しています。
「どこでもオフィス」を導入する前の2016年と比較して以下の成果が出ています。
- 16歳未満の子供をもつ社員のテレワーク総実施回数は1.4倍に上昇
- 定年退職後のシニア社員利用者は2.4倍に上昇(総実施回数は1.2倍に上昇)
- 障がいを持つ社員の利用者は1.7倍に上昇(総実施回数は2.4倍に上昇)
テレワークを導入したことで社員一人ひとりに合った働き方が実現できるようになり、多様な人材の活躍が促進されていることが伺えます。
テレワーク・在宅勤務の導入が中小企業におすすめな理由
大企業に比べて、テレワーク・在宅勤務の導入に割けるリソース(ヒト・モノ・カネ)に限りがある中小企業は、導入しにくいと考えられがちです。
しかし、実は中小企業にこそテレワーク・在宅勤務がおすすめなのです。
以下では、なぜ中小企業にテレワーク・在宅勤務導入がおすすめなのか、その理由を解説します。
中小企業だとテレワーク・在宅勤務導入の助成金を得られる
テレワーク・在宅勤務の導入が中小企業におすすめな理由の1つは、助成金を得られるからです。
国は、従業員規模や資本額に応じて、中小企業をサポートする補助金制度をいくつか定めています。
厚生労働省|働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)
この制度は、テレワークを導入する中小企業を対象に、テレワークの実施に要した費用の一部を補填してくれる制度です。
厚生労働省の支援対象となるのは以下の要件を全て満たした企業です。
(1) 労働者災害補償保険の適用事業主であること (2) 次のいずれかに該当する事業主であること
(3) テレワークを新規で導入する事業主であること、 又は、テレワークを継続して活用する事業主であること |
その他、支援対象となる取り組みや支給額に関しては、厚生労働省の「働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)」をご覧ください。
東京都|はじめてテレワーク(テレワーク導入促進整備補助金)
この制度は、東京しごと財団がテレワークを導入するための環境構築費や就業規則を専門家に委託する制度整備費を補助してくれる制度です。
東京都が実施するテレワーク導入に向けたコンサルティングを受けた都内の中堅・中小企業を補助対象としています。
補助金上限額としては以下のように設定されています。
- 従業員数300人~999人の企業は110万円
- 従業員数100人~299人の企業は70万円
- 従業員数100人未満の企業は40万円
詳しくは公益財団法人東京しごと財団の「はじめてテレワーク」のページをご覧ください。
経済産業省|IT導入補助金
IT導入補助金は、中小企業・小規模事業者等を対象に、その企業が抱える課題やニーズに応じてソフトウェア費、導入関連費などのITツールの導入を補填してくれる制度です。
補助の有無や金額の大小は、「事前の審査」と「事後の検査」の両方を行った上で決定されます。
補助の対象と基準は、常勤の従業員数と資本金に基づくもので、随時更新される可能性があるので、詳しくは経済産業省の「IT導入補助金」のページをご確認ください。
東京都|働き方改革宣言奨励金
働き方改革宣言奨励金とは、東京都が定める「TOKYO働き方改革宣言企業」を企業が宣言できるよう、企業の制度整備の取り組みを奨励金を通じて支援する制度です。対象は東京都内で事業を営む中小企業です。
働き方改革宣言事業を行った上で、テレワーク制度または在宅勤務制度を導入すると10万円が支給されます。
詳しくは東京都の「働き方改革宣言奨励金」のページをご覧ください。
人材確保
労働力人口の減少に伴い、多くの企業は人材不足を抱えています。特に人材不足の深刻化は中小企業で顕著です。
実際に、平成29年に中小企業基盤整備機構が発表している「人手不足に関する中小企業への影響と対応状況」によると、中小企業のうちの7割以上が人手不足を感じているという結果がでています。
厚生労働省によると、就業場所を問わないテレワークは離職率の低下および優秀な人材の確保に効果的であるとされています。
また、テレワーク・在宅勤務を実施することは企業のブランディングにもつながります。社員のワークライフバランスの向上が期待されるテレワーク・在宅勤務を導入している企業は、会社全体で働きやすい環境作りに力を入れているという印象を与え、イメージアップにつながるからです。こうしたイメージアップは優秀な人材の確保を促す効果が期待できます。
つまり、人材不足が深刻化する中小企業にとってこそ、テレワーク・在宅勤務は大きなメリットをもたらすのです。
会社の固定コスト削減
テレワーク・在宅勤務を導入すると様々なコストの削減につながるため、利益率の向上が期待できます。
削減できるコストとしては、社員の交通費、オフィスの賃貸料、光熱費などです。
平成23年5月に行われた総務省の試算では家庭での光熱費の増加を考慮しても、オフィス・家庭全体で電力消費量は、一人当たり14%削減可能であるとされています。
経費の削減を図れるテレワーク・在宅勤務の導入を考えてみてはどうでしょうか。
テレワーカーのタイムテーブル
最後に、厚生労働省の公表している「テレワーク活用の好事例集」に記載されているタイムテーブルを参照し、テレワーク時の時間の使い方や業務内容の特徴を見ていきます。
育児期のタイムテーブル
※クリックで拡大できます
40代女性の場合、テレワーク時は出社日のタイムテーブルと比べて、通勤・退勤の必要がないため、家事・子供との時間が多く確保できていることがわかります。
また、業務内容に関しても、資料作成といった出社せずとも対応できる業務を中心に行っています。このようにテレワーク時の生産性を落とさないためにも、テレワークでできる業務とできない業務を予め把握しておく必要があります。
なお、この例では、テレワークを行う際は一ヶ月前に上司・チームメンバーにテレワークを行う旨を連絡しています。事前に周知することはチーム内での生産性の維持につながっているようです。
介護期のタイムテーブル
※クリックで拡大できます
これは、父の通院に付き添わなくてはならない30代男性のタイムテーブルです。
従来、父に付き添う日は会社を休まなくてはならなかったそうですが、テレワークを活用することで、会社を休むことなく、通院のサポートができるようになったそうです。
また、通勤・退勤の時間を業務に充てるだけでなく、オフィスの開閉時間を気にする必要がないため朝早くから仕事をこなして時間を有効活用できるようにもなりました。
この事例においてもメールでの調整や資料作成といった在宅でも支障をきたさない業務を中心にこなしていることがわかります。
まとめ
テレワーク・在宅勤務制度の導入方法について理解は深まったでしょうか。
テレワーク・在宅勤務が上手く機能するようになるまではいくつかの課題を乗り越えなくてはなりませんが、その分、得られるメリットも絶大です。現在、導入を検討されている企業は、ぜひここでお伝えした導入方法を参考にしてみてください。
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