確定申告する際、個人事業主は経費の計上に気をつけなければなりません。
なぜなら、経費にできる費用を正確に計上することで大きく節税することが可能だからです。
今回は、個人事業主の経費について詳しく解説していきます。
そもそも個人事業主の経費ってなに
事業を行うために必要な費用のことを「経費」といいます。
事業を進める上での必要な支出のため、所得税を計算する際には事業の収入(売上)から経費として差し引けます。
所得税は事業の収入が増えれば増えるほど課税額も増えていく仕組みですが、経費として計上することによって事業の収入を減少させられます。事業の収入を減少させることで課税額も軽減できるため、経費を正確に計上することは節税につながります。
例えば、商品や原材料の仕入れ費用、取引先との打ち合わせに伴う交通費、飲食代などは経費として計上できます。
経費を計上する時期
事業に必要な支出を当該事業年度の経費として計上するためには「債務が確定している」必要があります。
「債務の確定」は、当該事業年度の期末までに「契約が成立している」「商品・サービスを受領している」「金額が確定している」という3つの条件を満たしている状態を指します。ほとんどの支出は該当します。
しかし、来期にサービスを受領するもので事前に支払いを済ませることもあるため、注意が必要です。
経費として認められるポイント
個人事業主の経費として認められるかどうかは以下の3つのポイントが重要です。
- 業務に直接関係がある
- 業務遂行上、必要性がある
- 業務用の金額を明確に区別できる
「業務に直接関係がある」というのは非常に重要なポイントです。
これから具体的にどのようなものが経費になるか説明していきますが、上記の3つポイントに注目しましょう。
個人事業主の経費になるものとならないもの
それでは、個人事業主の経費として何が認められて、何が認められないのでしょうか。
個人事業主の経費になるもの
経費の分類としてわかりやすいのが確定申告書に記載されている勘定科目です。これにしたがって、何が経費として認められるのか見ていきましょう。
勘定科目 | 内容と具体例 |
租税公課 | 国や地方自治体へ納める税金 例)個人事業税、消費税、固定資産税、自動車税、不動産取得税、印紙税、登録免許税 |
荷造運賃 | 商品や郵便物の梱包材代や送料 例)ダンボール箱、緩衝材(発泡スチロール等)、ガムテープ、郵便手数料 |
水道光熱費 | 事業運営で必要な水道光熱費 例)オフィスの水道料金、電気料金、ガス料金 |
旅費交通費 | 移動費や宿泊費 例)公共交通料金、タクシー代、バス代、航空運賃、出張宿泊費 |
通信費 | 通信するために必要な費用 例)インターネット料金、サーバー料金、電話料金、FAX代、切手代 |
広告宣伝費 | 商品やサービスを広告・宣伝するための費用 例)名刺代、インターネット広告費、チラシ、看板 |
接待交際費 | 顧客との接待費用、事業に関わる人との交際費用 例)取引先との飲食代、お得意先へのお祝い金・贈答品、取引先とのゴルフ代 |
損害保険料 | 事業に関わるものにかけた保険料 例)オフィスの火災保険、自動車保険 |
修繕費 | 建物や備品などの修繕費用 例)オフィスの改修、PCの修理、自動車の修理 |
消耗品費 | 10万円未満、もしくは法定耐用年数が1年未満のものを購入する際の費用 例)事務用品、電球、USBメモリ |
減価償却費 | 高額な固定資産の購入代金を、一回で経費として計上するのではなく、 一定期間にわたって分割して1年ずつ計上する費用 例)パソコン、オフィスチェア、カメラ、自動車 |
福利厚生費 | 従業員の福祉向上のため支給する給与以外のお金 例)慰安旅行費、レクリエーション費、お祝い金 |
給料賃金 | 従業員に支払う給与 ※青色事業専従者に対する給料は、下記の専従者給与に当てはまる |
外注工費 | 外部業者に委託した場合の費用 例)電気工事費、ホームページ制作、コンサル費 |
利子割引料 | 借入の支払利息、手形の割引料など 例)金融機関への支払利息、自動車ローン |
地代家賃 | オフィス等の土地や建物の賃借料や使用料 例)オフィス・店舗家賃、駐車場料金、倉庫使用料 |
貸倒金 | 売掛金、貸付金の回が不可能な場合に損金処理として使う勘定科目 例)売掛金、未収金、貸付金、前渡金 |
雑費 | 他の項目に含まれない少額の費用 例)ごみ処理代、クリーニング代、引越費用 |
専従者給与 | 青色事業専従者に支払う給料 例)青色事業専従者として従事している妻への給与 |
個人事業主の経費にならないもの
次に、経費にならないものをご説明します。
個人事業主の経費として認めらないものは基本的に「事業に関係のない支出」です。
しかし、中には一定の条件を満たすことで経費として認められるものもあります。
そこも含め具体的にどのようなものがあるか見ていきましょう。
事業と関係のない支払い
実は、事業に関係があれば飲食代やゴルフ、観劇代などの交際費も経費として計上できます。
しかし、前述した通り事業に関係のない支払いは一切経費にすることはできません。
具体的な例
- 事業と関係のない飲食代
- 事業と関係のないお中元・お歳暮等贈答品
- 事業と関係のない交通費、宿泊費
事業主自身のための支払い
個人事業主は基本的に事業主自身のための支払いは経費にできません。
さらに、個人事業主には福利厚生という概念はないため、健康診断の費用も経費にはできません。
スーツや靴など、私用でも使うとみなされるものも経費とは認められません。
完全に事業を進める上で必要な支出でなければ経費として計上することはできないため、注意が必要です。
具体的な例
- 事業主自身の給料
- 事業主自身の健康診断費用
- スーツや靴(作業着など仕事専用のものは可)
- 個人事業主自身の税金(所得税、住民税、相続税、贈与税、加算税・延滞税)
※事業用の印紙税、個人事業税は経費になります。 - 事業主自身の国民年金・国民健康保険の保険料
※経費にはなりませんが「所得控除」に記入することで税金を安くできます - 事業主自身の生命保険料、損害保険料
※「生命保険・地震保険料控除」として税金を減らすことはできますが会社員と同じく上限があります - 持ち家の場合の家賃支払い
※地代家賃としては計上できない
持ち家で事業利用している部分については減価償却費(土地代は含まれません)として一定割合を経費にします - 事業主が個人的に参加したコンペの参加費や、スポーツジムの会費
- 事業主が出張した実費を超える出張手当
家庭用の支払い
個人事業主は事業を進める上で自宅を事業用オフィスとして兼用する方も多いです。
このような場合は、家賃、光熱費、通信費など家庭用で使用した分と、事業用で使用した分の割合を計算し、事業用として使用した割合分の金額を経費として計上できます。
これを「家事按分」といいます。
もちろん、家庭用で使用した割合分の金額は経費計上できません。
具体的な例
- 家庭用の水道光熱費
- 家庭用のガソリン、灯油代
- 家庭用のインターネット利用料金、電話代
- 家庭用の火災保険料、自動車保険料、
- 家庭用の固定資産税、自動車税
- 自宅を生活で利用している部分の家賃 ※これらを事業用と家庭用で分ける基準は、使用時間、使用面積、使用日数などの割合です。この割合から経費を算出します
生計を一にする家族や親族への支払い
個人事業主として事業を行う場合、事業主の配偶者や親族が業務を手伝っていることも多いのではないでしょうか。
原則として、個人事業主と生計を一にする家族・親族に対して支払う給料や、家賃などの支払いは同じ生計内での資金の移動とみなされるため、経費計上できません。
具体的な例
- 青色事業専従者給与の届出を出していない配偶者の給与
- 事業主と専従者のみの慰安旅行費や飲食代など
- 生計を一にする家族への家賃支払い
ただし、青色事業専従者給与の届出を提出し、条件を満たした場合においては、給与を経費として計上できます。
金融機関からの借入金の元金、住宅ローンの元金
事業を継続的に進めるために金融機関から資金の借入をする個人事業主も多いのではないでしょうか。原則として、たとえ事業のために必要な借入であっても元金は経費に算入できません。借入した元金は、負債という項目で計上します。負債の返済は借りたお金を返しているだけなので、損益に影響を与えません。そのため、負債を経費として計上はできません。
しかし、利息は経費として計上できます。
例えば、1千万円借入をした場合は利息がついて1千万円を超える額を返済しなければなりません。その1千万円を超える部分の支払いは事業に必要な借入のために発生した費用とみなされるため経費にできます。
また、自宅を事業用オフィスと兼用しており、住宅ローンがある場合、事業用に使用しているスペースの割合分の利子も経費として算入できます。
敷金、保証金
敷金・保証金は「経費」ではなく、「資産」としてみなされます。
これらは、賃貸期間が終了したら借主に戻ってくる前提のお金のため、経費として扱われません。
該当する勘定科目は「敷金」または「差入保証金」になります。
礼金は、敷金・保証金とは扱い方が違うため注意が必要です。
礼金は、金額が20万円未満か20万円以上かで処理の仕方が異なります。
20万円未満の場合は支払い時に全額費用処理できます。勘定科目は「地代家賃」で処理します。
20万円以上の場合は支払い時に資産として処理し、賃借する期間または貸借期間が5年以上の場合は5年間で減価償却します。勘定科目は「長期前払費用」で処理します。
また、礼金と似た扱いになるのが「敷金償却」や「保証金償却」です。例えば、賃貸借契約書に敷金償却◯か月と記載があった場合、その分は退去時に戻ってきません。戻ってこないのであれば、繰延資産として礼金と同じ扱いになります。
個人事業主の資産とみなされるもの
パソコンやスマートフォンなどの1点もしくは1セットの金額が10万円以上のものは、経費ではなく個人事業主の「固定資産」としてみなされるため、一括で経費計上できません。
しかし、購入代金を分割し一定期間にわたって「減価償却費」として1年ずつ計上できます。この「減価償却費」の値は法定耐用年数を元に計算します。
法定耐用年数とは、各資産が利用に耐えうる年数として国が定めた数値のことです。
なお、減価償却できる資産は「年数に応じて価値が低下していくもの」である必要があります。たとえ高額なものでも、年数に応じて価値が低下しないものは減価償却の対象にはなりません。
また、青色申告者は「少額減価償却資産の特例」という制度があり、減価償却資産のうち1点あたり30万円未満の少額減価償却資産については、購入・使用開始した年度に一括して経費計上できます。
交通違反等の罰金、反則金
業務中に事故や交通違反などを起こし、その罰金や反則金を支払ったとしても経費として計上できません。
しかし、業務中に駐車違反によって交通反則金が徴収された場合、一緒に徴収されるレッカー費用は罰金ではないため経費にできます。
もちろん、業務上で移動のために支払ったガソリン代や駐車場代は経費にできます。
実質上使われていない設備機器(減価償却)
事業用に購入した土地や建物、設備機材はまず「固定資産」として計上します。そして期末決算時に「減価償却費」として法定耐用年数に応じて分割することによって、経費での計上ができます。
しかし、事業用の設備投資であっても業務上使われていない場合は計上できません。
ただ、個人事業主の経費になるかならないかの線引きは難しいものも多いため、確定申告の際に客観的におかしい数字にならなければそこまで神経質になる必要はないでしょう。
客観的に回収不能と判断されない売掛金、受取手形、貸付金
回収不能になった売掛金・受取手形、貸付金等は「貸倒金」という項目で経費に計上できます。
しかし、客観的に回収不能と判断されない場合は経費として認められない場合があります。貸倒金と認められるには以下の税法上の要件が存在します。
- 法律的に金銭債権が消滅している
- 債権の全額が回収不能になっている
- 一定期間取引停止後弁済がない
各項目について詳しく知りたい方は国税庁の「貸倒損失として処理できる場合」をご覧ください。上記いずれかの基準を満たしている場合は、貸倒金として損金に算入できます。しかし、客観的に見て上記の要件に当てはまると判断されなければなりません。
そのため「請求書の確認、支払いの催促、内容証明郵便による督促」など、回収のためにできる手段を講じたか、取引停止から1年以上期間が経過したかをきちんと確認しましょう。
経費処理の際にまちがえやすいもの
ここまで、経費として認められるものと認められないものをご紹介してきました。
以上を踏まえて、個人事業主が経費の処理で間違えやすいものをいくつかご説明していきます。
生計を一にする配偶者及びその他親族に支払う地代家賃
生計を一にするとは、日常の生活の資を共にすることをいいます。
簡単に言うと、同じ生活費で暮らしているということです。
必ずしも同居していることが要件になるわけではなく、別居していても生活費の送金をしている親族は生計を一にしているものとして取り扱われます。
生計を一にしている親族へ家賃を支払った場合は同一世帯内での資金移動とみなされるため、経費として計上できません。
また、受け取った側も所得として算入する必要はありません。
例えば、生計を一にしている親族が所有する物件を借りて家賃の支払いをしている場合、この規定が適応されるため注意が必要です。
家族へ支払う給与
生計を一にしている親族への給与支払いは基本的に同一世帯間での資金移動とみなされます。
しかし、青色申告をしており、規定されている手続きを行った場合には生計を一にしている親族への給与支払いが経費として認められるようになります。
これを青色事業専従者給与と言います。
また、白色申告の場合でも事業専従者控除という規定があり、規定に応じた金額が控除されます。
>>青色事業専従者給与、事業専従者控除についてさらに詳しく知りたい方<<
不動産投資で赤字になった場合の借入金利息
前項で、事業に必要と判断される借入金利息は経費として計上できることをお伝えしましたが、オフィスなどの業務用不動産を購入するための借入金利息も計上できます。
不動産購入のために不動産投資ローンを利用して金融機関から借り入れをした場合も、金利部分は経費にできます。
しかし、不動産所得が赤字になった場合、土地の借入金利息分に相当する金額は赤字として認められません。したがって、他の所得との損益通算(一方の利益から他方の損失分を差し引くことでその分税金を減らすこと)ができないので注意しましょう。
業務用資産の除却、修繕
業務用資産を廃棄した場合には、基本的に廃棄時の帳簿価格分を必要経費(資産損失)として計上できます。
業務用資産の修繕費用について経費計上できる金額に上限はありません。
修理を行った証明さえできれば、10円であろうが100万円であろうが経費として計上できます。
なお、不動産所得に関わる資産損失の金額については、その建物の貸付が「事業的規模」の場合と「事業的規模以外」の場合によって異なります。
貸付が「事業的規模」の場合、資産損失の全額を経費として算入できますが、「事業的規模以外」の場合、その年の資産損失を差し引く前の不動産所得の金額が経費に算入できる限度額となります。
業務用資産の除却・修繕についてさらに詳しく知りたい方は国税庁の「事業としての不動産貸付けとの区分」をご覧ください。
税金
事業に関わる税金は「租税公課」として経費計上できます。
租税公課の主な例は前項の「個人事業主の経費になるもの」で説明しました。
しかし、租税公課に含まれるものでも固定資産税や自動車税などの事業用と家庭用で兼用しているものは、事業用と家庭用で使用した割合を計算し、事業用として使用している割合分のみ経費として計上する必要があります。
所得税や住民税、相続税など、事業に関係なく支払いの義務がある税金は経費として計上できません。
経費の処理が複雑な項目について
個人事業主が経費の処理をする際、家事按分や交通費など処理が少し複雑なものがあります。以下では、家事按分のポイントと交通費を経費計上する際の注意点について解説します。
家事按分について
前項でも説明したとおり、自宅をオフィスと兼用している場合、家庭用で使用した分と事業用で使用した分の割合を計算し、事業用として使用した割合分の金額を経費として計上できます。これを家事按分といいます。
家事按分における青色申告と白色申告の違い
青色申告と白色申告で家事按分する際のルールが異なるため、注意が必要です。
青色申告の場合、事業に関連していると合理的に判断できる家事関連費は全て経費として計上できます。
一方で白色申告の場合、事業に関連していることは前提としてさらに条件が加えられます。その条件は「業務のために使用している割合がおおむね50%を超えていること」です。つまり、白色申告をしている個人事業主は半分以上業務に使用している家事関連費しか経費にできません。
家事按分できるもの
家事按分の対象となるものは、家庭用と事業用で兼用しており、事業に関連していると合理的に判断できるものです。
例えば、自宅とオフィスを兼用している場合の家賃、水道光熱費、通信費、駐車場代などが挙げられます。家事按分の仕方はそれぞれの費用によって異なります。
家事按分の方法
家事按分の方法・基準について見ていきましょう。
- 家賃
自宅をオフィスとして使用している場合の家賃は、事業用として使用しているスペースの床面積の割合を算出して、その割合分の家賃を経費計上できます。
家賃10万円 全体の床面積40㎡の自宅の内、20㎡を事業用スペースとして使用していた場合 |
20㎡(事業用スペースの床面積)÷40㎡(自宅全体の床面積)=0.5(自宅の床面積全体に対する事業用スペースの床面積の割合) 10万円(家賃)×0.5=5万円 この場合、経費として計上できる金額は5万円です。 |
なお、持ち家の場合では、事業用スペースの割合に基づいて建物の減価償却費、固定資産税、住宅ローンの金利、火災保険料の按分が可能です。
上記の例の場合、白色申告者は事業用スペースが20㎡以下の場合、家事按分しても経費として計上できない点も押さえておきましょう。
- 水道光熱費
水道光熱費は、使用日数や使用時間を基準にして按分します。正確な数字を出して計算することは難しいため、客観的におかしくない割合から経費にできる額を算出しましょう。
自宅兼オフィスで、月間180時間を業務として使用しており、その月の水道光熱費は10,000円だった場合 |
180h(業務として自宅兼オフィスを使用した時間)÷720h(30日×24h)=0.25 10,000円(一カ月の全体の水道光熱費)×0.25=2,500円 この場合、経費として計上できる金額は2,500円です。 |
- 通信費
インターネット使用料金や通話料金も、水道光熱費と同じく使用時間や使用日数を基準に按分します。
割合は客観的に見ておかしいものでなければ比較的自由に決めて構いません。
例えば、携帯料金を按分する際、ほとんどを事業用に使用している場合は90%を、事業用に使用していることの方が少し多ければ60%を経費として計算します。
月の携帯料金が10,000円で事業用に使用したのは約70%の場合 |
10,000円(1か月の携帯料金)×0.7=7,000円 この場合、経費として計上できる金額は7,000円です。 |
事業専用の携帯やインターネット回線を利用するのもよいでしょう。
なお、家事按分して算出した金額が小数点を含んでいる場合は、基本的に切り捨てと定められていますが、四捨五入しても構わないようです。
個人事業主の交通費についての注意点
業務上必要になった旅費や交通費は、「旅費交通費」の勘定科目を使用して経費計上できます。
例えば、出張時の旅費や打ち合わせのための交通費などが挙げられます。
特に交通費は業務を行う上で恒常的に発生するもののため、経費に計上する際も注意が必要です。
会社員として働いている場合でも通勤や出張の際には旅費交通費が必ず発生しますが、個人事業主と会社員では交通費の取り扱い方にどのような違いがあるのでしょうか。
以下では、個人事業主と会社員の交通費の取り扱い方を確認しながら説明していきます。
個人事業主の交通費の取り扱い
個人事業主はクライアントとの打ち合わせや新規顧客への営業活動などで、何らかの交通手段を使い移動することがあるかもしれません。
その際の交通費は業務上必要不可欠であり、問題なく旅費交通費として経費計上できます。
交通手段に関しても、電車、バスなどの公共交通機関の乗車料金だけでなく、タクシー代、航空券代、船賃、自家用車の燃料費、有料道路の通行料金など全て交通費として計上して構いません。業務のための移動費用は全て経費として認められると考えて問題ありません。
一方で、個人的な遊びや旅行など事業に全く関係のない移動費用は経費にできません。
交通費が業務のために使われているかどうか税務署で全て正確に確認することは難しいですが、旅費交通費の金額があまりに高いと税務調査で指摘を受ける可能性があるため注意が必要です。
会社員の交通費の取り扱い
会社員として働く場合も、出勤や出張で交通費が発生します。
基本的にこれらの交通費は会社員個人の経費にはなりません。
なぜなら、会社員が業務を行うために使った交通費は会社が負担しており、会社が経費として計上してるからです。
そのため会社員個人の経費としては認められず、所得税への影響もありません。
しかし、会社員として業務を行う上で、あまりに自費での支払いが多い場合は「給与所得者の特定支出控除」という制度を利用することで一定金額が控除されます。
「給与所得者の特定支出控除」とは、その年の特定支出の合計金額が基準の金額を超えた場合、確定申告によりその超えた分の金額を給与所得控除後の所得金額から差し引ける制度です。
この制度における特定支出は以下の支出を指します。
- 通勤のために必要と認められる支出(通勤費)
- 転勤のために必要になった支出(転居費)
- 職務に必要な技術や知識を得るための支出(研修費)
- 職務に必要な資格を得るために支出(資格取得費)
- 単身赴任先から自宅へ帰るために必要な支出(帰宅旅費)
- 職務に関する書籍や定期刊行物を購入するための支出(図書費)
- 制服や作業服を購入するための支出(衣服費)
- 交際費、接待費などの支出(交際費等)
しかし、この制度を利用するためには、特定支出の金額がその年の給与所得控除額の半分を超える必要があります。
例えば、年収500万円の場合、給与所得控除は154万円のため、特定支出控除を受けるためには自費で支払う特定支出の金額が77万円を超えていなければなりません。
このように非常に厳しい条件があることから、実際に利用できる人は少ないです。
給与所得者の特定支出控除についてさらに詳しく知りたい方は国税庁の「給与所得者の特定支出控除」をご覧ください。
個人事業主が交通費を経費計上する際に気を付けること
個人事業主が交通費を経費として計上するには、いくつかの処理が必要です。
旅費交通費は他の経費項目に比べても特に支出が多くなりがちのため、適当に処理してしまうと確定申告の際に整理するのが大変になってしまいます。
そうならないよう、交通費を経費として処理する際の注意点について確認していきましょう。
領収書の出ない交通費の処理方法
経費として認められるためには、支払いを証明する領収書が必要です。
日常の支払いの中には事業用の支払いもあれば、プライベートな支払いもありますが、経費として認められるのは事業に関係する支払いのみです。
普段から事業用とプライベート用で領収書を分けて保管することで正確に区別した上で、経費として計上しましょう。
では、領収書の発行されない交通費についてはどうすればよいのでしょうか。
タクシー代や新幹線代など、領収書が発行されることの多い交通手段を利用した際は必ず領収書をもらいましょう。
一方で、路線バスや電車の乗車賃は領収書が発行されないこともあります。
そのような場合は、支払いをするたびに出金伝票を作成することで領収書の代わりとなります。すぐに出金伝票を作成できない場合は一度メモ帳やスケジュール帳などに残しておき、後日出金伝票を作成しても問題はありません。
しかし、出金伝票は領収書と違い客観的な証明ができないため、以下の項目を記載する必要があります。
- 日付
- 金額
- 交通機関
- 区間
- 目的
これらを記載する際、目的を具体的に書くことが重要です。
「出張のため」といった抽象的なものではなく、「~~株式会社と〇〇の取引の打ち合わせがあるため」のように具体的でなければなりません。
上記の項目のいずれかを記録し忘れた場合、出金伝票があっても経費として認められないこともあるため注意が必要です。
また、電車を利用した場合に限りますが、券売機で切符の領収書やICカードの利用履歴を発行できます。
これを領収書の代わりとすることは可能ですが、出金伝票と同様に行先や目的などの記入が必須のため忘れないようにしましょう。
交通系ICカードにチャージした時点で交通費として経費計上していいのか
今時ほとんどの人がSuicaやPASMOといった交通系ICカードを利用しているのではないでしょうか。交通系ICカードは事前に一定額をチャージして、チャージしたお金で電車賃などを支払うものがほとんどです。
交通系ICカードを利用して決済した場合、どのタイミングで経費になるのかがわかりにくいです。チャージした時なのか、はたまた電車やバスに乗った時なのかどちらかわからないという方もいるのではないでしょうか。
原則として経費になるのは実際に電車やバスを利用した時で、チャージしただけでは経費にできません。
また、帳簿付けは電車やバスを利用した時だけでよいかというとそうではありません。
交通系ICカードへのチャージを事業用の現金から行った場合、帳簿と手元の現金残高を合わせる必要があるためチャージ時の帳簿付けも必要です。
では、一連の仕訳を具体例で確認しましょう。
- チャージ時
交通系ICカードへ事業用現金3,000円をチャージした。
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
前払金 | 3,000円 | 現金 | 3,000円 | チャージ代 |
交通系ICカードへチャージしたのみでは経費にならないため、一度前払金として計上します。なお、前払金は貯蔵品などの勘定科目でも可です。
- 電車賃200円を交通系ICカードから支払った
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
旅費交通費 | 200円 | 前払金 | 200円 | 電車賃 |
- 事業に必要な雑貨を1,000円分購入し、交通系ICカードで支払った
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
雑費 | 1,000円 | 前払金 | 1,000円 | 雑貨代 |
- プライベートでカフェで500円のコーヒーを注文し、交通系ICカードで支払った
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
事業主貸 | 500円 | 前払金 | 500円 | 飲食代 |
事業用現金をチャージした交通系ICカードからプライベートの支払いをした場合は「事業主貸」で処理します。交通系ICカードを利用している場合、交通費の経費計上はこのように行うことが原則です。
そもそも交通系ICカードは交通機関を利用するためのものでもあるので、チャージした時点でその金額を交通費として計上して処理を行う事業主もいます。
よっぽどおかしい金額を申告していなければ税務署から問い合わせが来ることもほとんどなく、結果的に容認されているケースが多いです。税理士によってはチャージ時点で経費計上してよいと言う方もいます。
しかし、万が一税務署から問い合わせが来たときのため、チャージした金額が私的に使われていないことを証明できる利用履歴を記録しておくと安心です。
このように個人事業主が交通費を経費として計上する際、様々な注意点があります。
これらに注意して正確に経費として計上できればかなりの節税効果が見込めます。
個人事業主の確定申告について
これまで個人事業主の経費に関することを中心に解説してきました。個人事業主の経費の話と一緒に必ず話題になるのが確定申告です。ここからは確定申告についてご説明していきます。
青色申告と白色申告はどちらがおすすめ?
確定申告の際、悩ましいのが青色申告と白色申告のどちらがよいのかという点です。
結論から言いますと、現行の制度では青色申告のほうが税制上のメリットが大きく、一定の条件を満たせば最大65万円の特別控除が受けられます。
白色申告の場合は、簡易簿記での記帳が必要になるものの、特別控除のような優遇制度はありません。
平成25年(2013年)12月までは白色申告では記帳が義務付けられていなかったため、一部の事業主にとっては手間が省けるというメリットがありました。
しかし、制度が変更されてからは青色申告と白色申告どちらで確定申告しても、必ず記帳が必要です。どちらも必ず記帳が必要なのであれば特別控除のような優遇制度がない白色申告よりも、最大65万円の特別控除が受けられる青色申告の方がオススメです。
>>個人事業主の確定申告についてさらに詳しく知りたい方はこちら<<
青色申告するためには複式簿記は必須なのか
「特別控除を受けるために青色申告をしたいけど、複式簿記での記帳が面倒」といった考えをお持ちの方も多いのではないでしょうか?
実は青色申告のみに限りますが、簡易簿記で記帳した場合も「10万円の特別控除」を受けられる優遇制度があります。
青色申告最大のメリットである「65万円の特別控除」は適用されませんが、簡易的な記帳で「10万円の特別控除」が適用されるのは複式簿記での記帳が面倒だと考えている方にとっては大きなメリットかもしれません。
個人事業主の確定申告を便利にする方法
個人事業主は確定申告のために、金銭の流れを把握して会計処理をしなければなりません。特に家庭用の支払いと事業用の支払いが混在してしまいがちです。
このようなことでお困りの方は、事業用のクレジットカードを作ることをおすすめします。
経費の支払いを事業用クレジットカードに統一すると、支払いをカードの利用明細書で一括管理ができるようになるため経費の管理が楽になります。
経費についてよくある細かい疑問
経費の取り扱い方に関してよくある疑問に関して紹介します。
国税庁のホームページのタックスアンサーというページで、経費に関するよくある質問に回答しています。さらに詳しく知りたい方はこちらもご覧ください。
どの勘定科目を当てはめればいい?
経費にも様々な種類がありますが、勘定科目は何を当てはめればよいのでしょうか。
基本的な知識は必要ですが、細かい区分の選択は事業主自身が分かりやすいものを記入して問題ありません。
例えば、ボールペンを購入し、経費として計上する際「消耗品費」とするか「事務用品費」とするかによって計上する金額が変わるわけではないため、勘定科目をどちらにしても所得金額に影響はありません。
税務署としても課税金額は変わらないのであれば問題視することはないので、自分が分かりやすい勘定科目を使用しましょう。
しかし、あまりに適当な勘定科目で記帳した場合、後で確認するときに分かりにくくなってしまうため、自分が見たときに分かるようにルールを決めて記帳しましょう。
経費として認められるか税務署で確認できる?
自分が記入した経費について、税務署で経費として認められるのかは非常に気になるところです。
しかし、基本的に税務署で事前にそれぞれの項目が経費として認められるかどうかは確認できません。所得税は申告納税方式(納税者自らが申告によって税額を確定させ、この確定した税額を納付する制度のこと)のため、事業主自身で経費として問題ないかを正確に判断して申告することが前提です。
提出した確定申告書について税務署から指摘がなければ経費として認められた?
確定申告の直後に税務署からなにも指摘がなかったとしても、正式に経費として認められたかどうかは分かりません。
提出した確定申告書には各勘定科目の合計金額しか記載されておらず、税務署は各科目の内訳は知り得ないため、科目の内訳を知るには税務調査を行わなければなりません。
税務調査とは、税務署員が納税者の申告内容に漏れがないか確認する調査のことをいいます。税務調査は帳簿や領収書などの書類の検証から、事実確認のために銀行や取引先などでも調査が行われることがあります。
調査の時期は9月から11月にかけて行われることが多いため、確定申告をして3ヶ月から4ヶ月の間なにも指摘がなかったとしても安心はできません。
もしも、確定申告に違法な処理が行われていた場合、税法により正しい申告や納税に改める必要があります。
税務調査における家事按分割合の合意の意味
家事按分とは、家庭用と事業用で使用割合を分けて経費を計算するものだと前項で解説しました。家事按分割合とは、家庭用と事業用の使用割合のことを指します。
税務調査において、この割合に関して指摘を受けることがあります。
その場合、調査の中でお互いの認識に齟齬がないようにすり合わせます。
同意がなされた場合は、その時点では税務署と個人事業主の間で合意の上、家事按分割合が認められたという認識になります。
しかし、今後ずっとその割合が認められるという訳ではなく、あくまでその時点では同意したという認識になるため注意が必要です。
税務署が正式に経費として問題ないと認めることは少ない
税務署で確認をしても正式に経費として認められることはほとんどありません。
また、税務調査の際、個人事業主と税務署の間で認識のズレが起こることもしばしばあります。
指摘されても事業に必要な費用であることを証明をするためには、証明できる書類をきちんと保管し、正確に経費として計上する必要があります。
なお、国税庁の「税務行政の現状と課題」によると個人事業主が税務調査を受ける確率(実調率)は約1.1%です。
健全な申告を行っていれば一度も税務調査を受けることはないと考えてよいでしょう。
しかし、客観的に合理的でない数字を申告すれば、当然税務調査を受けることになるため気持ちのいい確定申告をするためにも健全な申告を心がけましょう。
個人事業主の節税について
個人事業主が節税する目的はお金を手元に残すことです。
節税対策を怠った場合、手元に残せたはずのお金も税金として徴収されてしまいます。
そのため、節税対策はできる限り行うことをおすすめします。
個人事業主の節税対策は様々な方法があります。これらをうまく駆使することで税負担を軽くできます。少しの手続きで、同じ収入でも課税額が10万円~100万円程変わる場合もあります。個人事業主の場合、収入(売上)から必要経費を引いたものが事業所得となり、ここから各種控除の対象となる額を引いたものが課税所得です。
経費をより多く計上したほうが、課税所得が少なくなり税負担を軽減できます。
個人事業主の節税対策
では、一口に節税対策と言っても何をすればよいのでしょうか。
具体的な個人事業主の節税対策をご紹介します。
- 青色申告の承認を受ける
- 経費にできる税金をもれなく計上する
- 家事按分を徹底する
- 短期前払費用の特例を活用する
- 経営セーフティー共済へ加入する
- 小規模企業共済へ加入する
- 所得控除、税額控除をすべて計上する
- ふるさと納税を活用する
- iDeCoへ加入する
節税につなげるために
基本的に「短期前払費用の特例」「少額減価償却資産の特例」などの経費の計上時期を変更する制度は課税を先送りしているだけで、長期的には節税にならないケースが多いです。
長期的な節税のためには、利益の多い期の経費計上を多くすることが重要です。
そのため、事業年度中にその年はどの程度の利益や課税所得が発生するのか、ある程度見込みを立てるようにしましょう。
まとめ
今回は個人事業主の経費について詳しく解説しました。非常に複雑なものでもあるため、個人事業主にとっては悩みの種です。
しかし、経費は正確に計上すれば大きなリターンもあります。
ぜひ経費を正確に処理して、健全な節税を心がけましょう。
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