私たちは日々、様々な税金を納めています。
老若男女問わず一番馴染み深いのは消費税です。会社員であれば毎月の給料から所得税が源泉徴収されていたり、住民税が特別徴収されていたりと会社が自分の代わりにまとめて納めてくれているため、一年でどのくらい税金を納めているのか気にしていない方が多いのではないでしょうか。
しかし、個人事業主やフリーランスになると税金の計算をすべて自分で行わなくてはいけないので、中には不安になる方もいるかもしれません。
そこで今回は個人事業主の税金について徹底的にご説明していきます。
個人事業主の税金
会社員と違い個人事業主は税金を払う時に「経費」に留意する必要があります。
会社員は業務に必要なものは会社が経費で負担してくれますが、個人事業主の場合はすべて自分で経費を算出して負担しなければいけないからです。
個人事業主が納める税金には、経費にできるものと経費にできないものの2種類があります。
個人事業税のような事業そのものにかかる税金を「租税公課」といい、こちらは経費にできます。
一方で、事業に関係しない税金を「事業主貸」といい、こちらは経費にはできません。経理上では「事業主貸」という勘定科目で仕訳されます。
また、自宅をオフィスとして兼用していたり、自家用車を営業活動でも用いていたりすると線引きが難しいことが多々あるかもしれません。その場合は、事業用(租税公課)と個人用(事業主貸)の2つに税額を按分しましょう。これを複合仕訳といいます。
個人事業主が支払う税金の種類
税金にはいくつも種類がありますが、ここでは個人事業主に関わりの深い4つをご紹介します。この他にも不動産を所有している場合にかかる「固定資産税」、人を雇用する場合にかかる「源泉徴収税」があります。
所得税
その名の通り一年間のすべての所得に対して課せられる税金です。所得税は国に納める国税で国家の運営に用いられます。
所得税は事業所得の経費にはならないため事業主貸で仕訳をします。
>>所得についてより詳しく知りたい方はこちらをご覧ください<<
住民税
住民税は地方税の一種で、市町村民税と道府県民税をまとめて指した言い方です。
補足ですが、東京都在住の場合は道府県民税の代わりに都民税、東京23区在住の方は市町村民税の代わりに特別区民税といいます。住民税は地方自治体の教育や福祉・行政などに用いられます。
また、住民税には所得に応じてかかる所得割と全ての住民が同一額を負担する均等割があります。
住民税も事業に関係なく個人にかかる税金なので、事業主貸で仕訳をします。
>>複業をする際の住民税について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください<<
消費税
消費税は、商品・製品の販売やサービスの提供などの取引に対して課税される税で、消費者が負担して事業者が納付します。
消費税は租税公課に該当するので経費に計上できます。
ただし、個人事業主の消費税の場合「小規模事業者の納税義務の免除」という制度が適用されます。これは暦年で見て前々年の年間所得1,000万円以下なら消費税の納税は免除される制度です。すなわち事業を始めて最初の2年は無条件に消費税納税が免除されます。
納税が免除される個人事業主を免税事業者、免除されない個人事業主を課税事業者と呼びます。
また、例外として前々年の年間所得が1,000万円以下であっても、特定期間である前年の1月1日から6月30日までの期間に課税売上及び給与支払額の両方が1,000万円を超えた場合のみ課税事業者になります。
個人事業税
個人事業税は、個人が営む事業のうち地方税法等で定められた事業(法定業種)に対してかかる税金です。現在、法定業種は70業種あるためほとんどの事業が該当します。
個人事業税も租税公課に該当するので経費に計上できます。
ただし、事業主控除額が年間290万円なので、その年度の売上が290万円以下の人は個人事業税を支払う必要はありません。
なお、営業期間が1年未満の場合は以下の図のように控除金額が月割額となります。
事業を行った月数 | 事業主控除額 |
1ヶ月 | 242,000 |
2ヶ月 | 484,000 |
3ヶ月 | 725,000 |
4ヶ月 | 967,000 |
5ヶ月 | 1,209,000 |
6ヶ月 | 1,450,000 |
7ヶ月 | 1,692,000 |
8ヶ月 | 1,934,000 |
9ヶ月 | 2,175,000 |
10ヶ月 | 2,417,000 |
11ヶ月 | 2,659,000 |
12ヶ月 | 2,900,000 |
個人事業税も租税公課に該当するため、経費に計上できます。
各税金の納付期限
それでは次に各税金の納付時期について見ていきましょう。
いずれの納付期限も土日祝日とかぶった場合は次の平日が期限になります。
所得税の納付期限
所得税の納付期限は、その年の確定申告の提出期限日(3月15日)です。
住民税の納付期限
住民税の納付期限は6月末日、8月末日、10月末日、翌年1月末日です。
なお、6月末日に一括で納付することもできます。
消費税の納付期限
消費税の納付期限は3月末日です。
個人事業税の納付時期
個人事業税の納付期限は8月末日、11月末日です。
各税金の計算方法
次にそれぞれの税金の計算方法についてご説明します。
税金の計算をする際に欠かせない所得の計算について先に抑えておきましょう。
所得金額=収入-経費
個人事業主の方が税金を簡易に計算できるツールとして個人事業主シミュレーションもおすすめです。
所得税の計算方法
所得税は以下の式で計算します。
課税所得金額 =所得額 − 各種所得控除額
所得税額=課税所得金額 × 税率 − 税額控除額
住民税の計算方法
住民税は以下の式で計算します。
所得割額=(所得額 − 各種所得控除額)× 税率(10%) − 税額控除額
住民税額= 所得割額+均等割額
※住民税の所得控除は、所得税の所得控除とは控除額が異なります。
※均等割は地域ごとに一律額が課せられる地方税です。
※所得割額の税率や均等割額は一部地域によって異なりますが、標準税率は以下の通りです。
種別 |
市町村民税 |
道府県民税 |
合計 |
所得割 |
6% |
4% |
10% |
均等割 |
3,500円 |
1,500円 |
5,000円 |
詳しい計算方法は「住民税の計算方法」をご覧ください。
消費税の計算方法
消費税の納付税額=(課税売上高×0.1)−(課税仕入高×0.1)
※軽減税率が適用される場合は消費税が8%になるので注意しましょう。
※軽減税率が適用される場合は、0.1ではなくそれぞれ0.08をかけて計算してください。
簡易課税制度
課税期間の前々年又は前々事業年度(基準期間)の課税売上高が5,000万円以下であり、「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出した事業者はその課税期間の仕入れに係る消費税額を実額によらないで計算する簡易課税制度の特例が適用されます。
細かな取引が多い事業者の事務負担を軽減させるための制度です。
計算式は以下のようになります。
消費税の納付税額=(課税売上高×8%)-(課税売上高×8%×みなし仕入率)
事業区分 |
みなし仕入率 |
該当する事業 |
第一種事業 |
90% |
卸売業(他の者から購入した商品をその性質、形状を変更しないで他の事業者に対して販売する事業)をいいます。 |
第二種事業 |
80% |
小売業(他の者から購入した商品をその性質、形状を変更しないで販売する事業で第一種事業以外のもの)をいいます。 |
第三種事業 |
70% |
農業(※)、林業(※)、漁業(※)、鉱業、建設業、製造業(製造小売業を含みます。)、電気業、ガス業、熱供給業及び水道業をいい、第一種事業、第二種事業に該当するもの及び加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を除きます。 ※令和元年10月1日を含む課税期間(同日前の取引は除きます。)からは、農業、林業、漁業のうち、消費税の軽減税率が適用される飲食料品の譲渡に係る事業区分が第三種事業から第二種事業へ変更されます。 |
第四種事業 |
60% |
第一種事業、第二種事業、第三種事業、第五種事業及び第六種事業以外の事業をいい、具体的には、飲食店業などです。なお、第三種事業から除かれる加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業も第四種事業となります。 |
第五種事業 |
50% |
運輸通信業、金融・保険業 、サービス業(飲食店業に該当する事業を除きます。)をいい、第一種事業から第三種事業までの事業に該当する事業を除きます。 |
第六種事業 |
40% |
不動産業 |
個人事業税の計算方法
個人事業税は以下の式で計算します。
個人事業税 =(事業所得又は不動産所得 + 所得税の事業専従者給与(控除)額 − 個人の事業税の事業専従者給与(控除)額 + 青色申告特別控除額-各種控除額) × 税率
この計算式は東京都主税局で公表しているものですが、足したり引いたりわかりづらくなっています。
上記の事業所得の部分を計算すると以下の式になります。
事業所得 = 収入 − 経費 − 専従者給与(控除) − 青色申告特別控除
このように、事業所得は専従者給与や青色申告特別控除が差し引かれています。
しかし、個人事業税は青色申告特別控除が適用されないため個人事業税を算出するときに再度足しているのです。
差し引きゼロになる部分を省略すると以下の式になります。
個人事業税 = (収入-経費-事業主控除-繰越控除) × 税率
※事業主控除は一律290万円です。
事業を行っている期間が一年未満の場合は月額割になります。
収入から経費を差し引いた額が290万以下であれば個人事業税は課せられません。
※所得税の事業専従者給与(控除)額と個人の事業税の事業専従者給与(控除)額が異なる場合は簡略化した式では値が異なるため、簡略化していない式で計算する必要があります。
税率は業種によって異なります。大部分は税率5%で計算します。
区分 |
税率 |
事業の種類 |
|||
第1種事業 (37業種) |
5% |
物品販売業 |
運送取扱業 |
料理店業 |
遊覧所業 |
保険業 |
船舶定係場業 |
飲食店業 |
商品取引業 |
||
金銭貸付業 |
倉庫業 |
周旋業 |
不動産売買業 |
||
物品貸付業 |
駐車場業 |
代理業 |
広告業 |
||
不動産貸付業 |
請負業 |
仲立業 |
興信所業 |
||
製造業 |
印刷業 |
問屋業 |
案内業 |
||
電気供給業 |
出版業 |
両替業 |
冠婚葬祭業 |
||
土石採取業 |
写真業 |
公衆浴場業(むし風呂等) |
- |
||
電気通信事業 |
席貸業 |
演劇興行業 |
- |
||
運送業 |
旅館業 |
遊技場業 |
- |
||
第2種事業 (3業種) |
4% |
畜産業 |
水産業 |
薪炭製造業 |
- |
第3種事業 (30業種) |
5% |
医業 |
公証人業 |
設計監督者業 |
公衆浴場業(銭湯) |
歯科医業 |
弁理士業 |
不動産鑑定業 |
歯科衛生士業 |
||
薬剤師業 |
税理士業 |
デザイン業 |
歯科技工士業 |
||
獣医業 |
公認会計士業 |
諸芸師匠業 |
測量士業 |
||
弁護士業 |
計理士業 |
理容業 |
土地家屋調査士業 |
||
司法書士業 |
社会保険労務士業 |
美容業 |
海事代理士業 |
||
行政書士業 |
コンサルタント業 |
クリーニング業 |
印刷製版業 |
||
3% |
あんま・マッサージ又は指圧・はり・きゅう・柔道整復 その他の医業に類する事業 |
装蹄師業 |
上記でご紹介した第1種から第3種に該当しない業種は個人事業税の納税義務がありません。
例えば、作家や翻訳のような文筆業、漫画家・画家・音楽家・作詞家・作曲家などの芸術家と呼ばれる職種です。他にも芸能人・スポーツ選手も上記業種には含まれません。
しかし、判断に悩む業務内容は多くあります。翻訳のみを行っている場合は非課税ですが、通訳も行う場合は案内業となったり、漫画家や画家がイラストレーターとして仕事を行うとデザイン業となる場合があります。業務内容によっては納税の対象になる場合もあるので注意しましょう。
また、国税庁のサイトには下記所得が非課税所得と記載してあります。
- 林業から生ずる所得
- 鉱物掘採(事)業から生ずる所得
- 社会保険診療報酬等に係る所得
- 外国での事業に係る所得(外国に有する事務所等で生じた所得)
- 地方税法第72条の2に定める事業に該当しないものから生ずる所得
この条件も含め考えると、保険診療の所得は非課税ですが、自由診療で得た所得は課税対象になります。
このように上記職種に該当する場合と該当しない場合、両方の利益があるときは事業の会計を分けて管理すると良いでしょう。また、確定申告の際に非課税分の所得を書かないと所得全体に税金がかかってしまうので気をつけましょう。
非課非課税分の所得は、確定申告書B第二表の「住民税・事業税に関する事項」で「非課税所得など」という欄に記載します。
個人事業主の節税方法
それでは個人事業主の節税の方法について解説します。
いくつかの手段を用いることで、効果的に節税できます。
経費と控除の確認
上述でご説明した所得金額の式の通り、収入に占める経費の額が増えるほど所得額が減り、税金もそれに応じて減ります。
所得=収入-経費
クライアントとの飲食代、交通費、宣伝費など経費計上できるものは思いのほか多いです。
また、自宅をオフィスとして兼用している場合は光熱費やネットの費用なども複合仕訳を活用すれば一部は経費計上できます。さらに、国民健康保険や国民年金などは社会保険料控除の対象になります。
今一度、経費と控除の見直しをしてはいかがでしょうか。
65万円の青色申告特別控除の活用
個人事業主として青色申告をすれば最大65万円の控除を受けられます。
青色申告をしないと特別控除はありませんし、赤字の繰越しができないなどの弊害もあります。
>>青色申告についてより詳しく知りたい方はこちらをご覧ください<<
少額減価償却資産の特例
経費のうちPCをはじめとする椅子や机などの使っていくうちに価値が減少していく資産のことを減価償却資産と呼びます。事業用に購入した減価償却資産は固定資産として計上できます。
30万円未満の減価償却資産を購入した場合、一定条件を満たせば少額減価償却資産の特例を用いて、取得した価格すべてを経費計上できます。本来は一個もしくは一組あたり10万円未満の減価償却資産しか一括で経費計上できません。10万円以上の場合は固定資産として扱い、耐用年数に応じ本体額を分割して経費に計上します。
そこで、この少額減価償却資産の特例を用いれば一括計上できる限度額を10万円未満から30万円未満まで引き上げられるのです。これにより経費計上できる額は大幅に引き上げられます。
ただし、この特例は青色申告者しかできません。
また減価償却資産の特例を適用できるのは一年間で合計300万円までなので、10点しか特例適用はできないため注意しましょう。
社会保険で見る個人事業主と会社員の違い
個人事業主は社会保険の内容が会社員とは異なりますが、その中で医療と年金についてご説明します。
本記事では社会保険の中でも話を一部に絞っていますが、より詳しく社会保険について知りたい方は以下をご覧ください。
>>社会保険についてより詳しく知りたい方はこちらをご覧ください<<
医療に関する保険
会社員の場合は健康保険組合または全国健康保険協会が運営する会社の健康保険に加入するため選択の余地はありません。
個人事業主も基本的には地方自治体による国民健康保険に加入する必要があるのですが、実は以下のような選択肢もあります。
国民健康保険への加入
基本的には個人事業主は国民健康保険に加入しています。
国民健康保険は収入や各地方自治体によって保険料が異なります。
また、会社員が加入する健康保険とは異なり、扶養という概念がありません。そのため配偶者である個人事業主は対象となる家族全員分の保険料を支払う必要があります。
今まで加入していた健康保険組合の任意継続
かつて会社員であり健康保険に加入していた方であれば、健康保険を任意継続できます。
協会けんぽおよび健康保険組合に加入していた期間が2ヶ月以上あれば退職後も2年間は健康保険を継続できるという制度です。
任意継続をする場合は、退職日の翌日から20日以内に申請しなくてはなりません。
任意継続をすると扶養家族も継続して健康保険に加入できるので大きなメリットになります。
両親や配偶者が加入している健康保険の扶養家族に入る
配偶者や両親などが健康保険に加入している場合、自分が扶養対象であればその健康保険の扶養家族に入るという手もあります。
しかし、被保険者が扶養家族と生計を同一にしていること、自分の年間収入が130万円未満であり被保険者の年間収入の2分の1未満であることが条件となっています。
もしも、自分が条件に当てはまり扶養家族への加入を考えている場合は原則5日以内に被扶養者異動届(認定申請用)および必要書類一式を提出しましょう。
>>全国健康保険協会の被扶養者の条件を知りたい方はこちらをご覧ください<<
国民健康保険組合への加入
国民健康保険料が高いと感じている場合、職種や業務・地域など加入条件は限定されますが「国民健康保険組合」を調べてみましょう。
国民健康保険の保険料は収入に比例して高くなりますが、国民健康保険組合の保険料は固定であることが大半です。
例えば、関東信越税理士会会員である税理士が加入できる関東信越税理士国民健康保険組合、日本国内に在住で芸術活動を行っている組合加盟各団体の会員が加入できる文芸美術国民健康保険組合などがあります。
その他の業種も一般業種国民健康保険組合一覧で確認してみましょう。
年金に関する保険
会社員であれば厚生年金保険に加入し、個人事業主は国民年金に加入しています。
厚生年金保険と比べると国民年金は将来受け取れる金額が低く心許ないです。
そこで老後資金を蓄えるため、個人事業主が国民年金に加えて加入できる以下のような保険があるのでおすすめです。
法人成りはいつがいい?個人事業主と法人はどちらがいいの?
個人事業主を続けていると法人化するかどうか迷う方も多いでしょう。
しかし、一概にどちらが良いと断定することはできません。
個人事業主の状態で努力量に応じて稼ぎたいなら個人事業主、事業の規模を大きくしていきたい願望があるなら法人化の方が良いです。
自身が目指す事業規模を検討した上で法人化するかどうかを判断しましょう。
さいごに
会社員から個人事業主になると今までは会社が行ってくれていた税金の計算や納税を自分でやらなくてはいけなくなります。税金によっては計算方法も納税時期も異なり、大変だと感じることも多いでしょう。
しかし、税金に関する知識をたくさん持つことによって先を見据えた資金繰りや節税ができます。
もしも、税金に関して不安に感じることがあれば一人で悩まず税理士や管轄の税務署に相談してみましょう。
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