近年注目されている「ニューノーマル」という言葉についてどれほどご存じですか?
いまいちよく分かっていないといった方もいるのではないでしょうか。
ニューノーマル時代を生き抜くためには、ニューノーマルとは何なのか、企業や個人にどのような影響があるのかを知っておく必要があります。
本記事ではニューノーマルな働き方についてご説明していきます。企業だけでなく、個人の方もこれからの働き方についてぜひご参考にしていただければ幸いです。
ニューノーマルとは
ニューノーマルとは、「New(新しい)」と「Normal(標準、常態)」の2単語が融合して生まれた造語で、「新常態・新常識」を意味します。
ニューノーマル=テレワークだと誤解されている方もいますが、本来は「それまで当たり前だった常識や常態を構造的に変化させ、時勢に合わせてアップデートしていく動き」を指します。
最近よく耳にするようになった言葉ではありますが、これまでにもニューノーマルと呼ばれる事態が二度ほど起きています。
一度目は2000年代初めの「インターネットの普及」です。
インターネットの普及によって、これまでのビジネスモデルや経済論理が通用しなくなり、ニューノーマルという言葉が使われ始めました。
二度目は2008年~2009年に起こった「リーマンショック」です。
アメリカの有力投資銀行であるリーマン・ブラザーズ・ホールディングスが経営破綻し、世界経済に多大な影響を与えました。
これをきっかけに資本主義社会から持続可能な社会への変革が進められます。
そして近年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)です。
コロナ禍において再びニューノーマルが注目され、現在では「Withコロナ、Afterコロナに対応するための動き」を指す言葉となっています。
たとえ新型コロナウイルスが収束したとしても、経済や社会が以前と同じような状況へ戻っていくことは難しいと考えられているため、生活だけでなく働き方にも「ニューノーマル」を取り入れていくことが求められています。
コロナ禍で起きた日常や働き方の変化
新型コロナウイルスの感染拡大によって生活が大きく変化しました。
これまで当たり前だと思っていたことが当たり前ではなくなり、当たり前でなかったことが当たり前の世の中となりましたが、主にどのようなことが変化したのでしょうか。
ここではコロナ禍で起きた日常や働き方の変化についてご説明していきます。
感染防止対策
新型コロナウイルスは飛沫感染や接触感染が主体であることから、飛沫防止のためのマスク着用やアルコール消毒の徹底、屋内や施設などに立ち入る際の検温や体調チェックなどが行われるようになりました。
他にも、人と人との距離を確保する「ソーシャルディスタンス」という考え方も一般的になりつつあります。
また、3密(密集、密接、密閉)が生まれやすいとされている飲食、イベントなどには、感染拡大防止のための開催制限、休業要請が出されました。これにより、厳しい経営状況に直面し廃業を余儀なくされた企業も少なくありません。
消費者のニーズや購買プロセス
ニッセイ基礎研究所が2020年5月に公表した「新型コロナで増えた消費、減った消費」では、外出自粛や非接触志向等によって消費者のニーズが変化していることを示しています。
例えば、メイクアップ用品やファッションの支出額は減少しています。外出する機会がめっきり減り、メイクやファッションに気を遣う必要がなくなったことで支出額が減少したと考えられます。
一方で、ヘアドライヤーや美容家電、生地の支出額は増加しています。自宅でできる美容や裁縫を行う人が増加したことで支出額も増加したのだと予測されます。
また、「巣ごもり需要」からネット通販やフードデリバリー、映像・電子書籍などデジタルコンテンツの支出額も増加していることで、購買プロセスも変化してきていることが分かります。
これにより、接客販売を伴うビジネスはECサイトでのオンライン通販を拡充させ、飲食店ではモバイルオーダーシステムの導入や、テイクアウト、デリバリーサービスを開始する店舗も多くなりました。
企業は今後も消費者ニーズや購買プロセスの変化に応じて、サービスの形やビジネスモデルを変えていく必要があると言えるでしょう。
顧客・取引先との関わり方
顧客・取引先との関わり方も変化しています。
以前までは取引先やクライアントとの打ち合わせは対面がほとんどだったのではないでしょうか。
しかし、現在では大半の企業がWeb会議ツールを利用した打ち合わせを行っていたり、ビジネスチャットでコミュニケーションを図っていたりと、制度や文化が大きく変化しています。
また、接客販売においても、上述したオンライン通販だけでなく、キャッシュレス化やセルフレジなどが多くの店舗で導入されるようになり、人と人との接触機会を減らす仕組みづくりが進められています。
セールス・マーケティングの手法
総務省が2021年2月に公表した「我が国のインターネットにおけるトラヒックの集計結果」によると、インターネットの通信量が前年同月比で50%以上増加していることが分かります。
新型コロナウイルス感染対策として政府が外出自粛の要請をしたことや、テレワークの推進を行っていることからインターネットへの接続率が増加したのだと推測できます。
今後もテレワークが継続され、新たにテレワークを導入する企業も増加すると予測されるため、オンラインでのイベントや展示会などデジタル中心のマーケティング施策がさらに加速するでしょう。
また、営業活動においても、これまでは直接顧客にアプローチすることがほとんどでしたが、オンラインで営業を行うスタイルに変化しています。
Web会議ツールを用いて商談を行ったり、ウェビナーによってリード獲得したりといつでもどこからでも営業活動が行えるようになりました。
ニューノーマル時代の働き方
新型コロナウイルスは日常生活だけでなく、ビジネスシーンにも大きな影響を与えています。そのため、企業と個人、双方が改めて働き方について見直していくべきだと言えるでしょう。
ここでは、ニューノーマル時代における代表的な働き方についてご紹介します。
テレワーク・在宅勤務
ニューノーマル時代の働き方で代表的なのは、テレワーク・在宅勤務 です。
実はコロナ禍以前からも働き方改革の施策の一つとして、テレワークは推進されていました。国を挙げて推進していたテレワークですが、当時はそれほど普及していないという現実があります。
しかし、新型コロナウイルスの感染が拡大、長期化するにつれてテレワークが一気に普及しました。
テレワークの導入状況について、詳しくは「テレワークの導入状況は?導入状況から在宅勤務制度の導入方法や企業の導入事例を一挙大公開!」をご覧ください。
テレワークを導入することによって従業員が得られるメリットは、以下が挙げられます。
- ワークライフバランスが充実する
- 通勤ストレスがなくなる
- 業務に集中しやすい
パーソル総合研究所が2020年12月に公表した「第四回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」では、新型コロナウイルス収束後のテレワーク継続希望率は全体で78.6%と高く、実際にテレワークのメリットを実感している人が多いと言えます。
企業にとってもテレワークを導入することで生産性の向上や業務効率化が見込めるため、ニューノーマル時代においてもテレワークが常態化するのではないかと考えられています。
また、テレワークを導入することで優秀な人材を確保できたり、企業イメージが向上したりといったメリットがあるため、今後より一層テレワークを導入する企業が増えてくるはずです。
>>テレワーク・在宅勤務のメリットやデメリットについて詳しくはこちら<<
柔軟な勤務体制
これまでは決まった時間に会社に行き、決まった時間まで働くことが一般的でした。
しかし、ニューノーマル時代では柔軟な勤務体制が求められています。
新型コロナウイルスだけでなく、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少や、働き手のニーズが多様化する問題がある中、すべての従業員にまったく同じ勤務体制を当てはめることは現実的とは言えません。個々の事情に理解を示し、働き方の選択肢を与える必要があります。
例えば、以下のような働き方が求められています。
- 時差出勤やフレックスタイム制
- 月に数回の出社日
- 勤務場所の選択
3密を避けるために出勤時間をずらす時差出勤や、ワークライフバランスを尊重した働き方であるフレックスタイム制、テレワークを実施しながらも週に数回の出社日を設ける方法などがあります。
その上、ニューノーマル時代の働き方では、会社ではなくサテライトオフィスやコワーキングスペース、旅行先などで仕事をしても良いとされています。
業務のオンライン化
なるべく対面を避け、人と人との接触機会を減らすことが常態化している現代において、業務のオンライン化は必要不可欠でしょう。
ニューノーマル時代では、非IT企業であってもオンライン化が求められています。
例えば、以下のようなもののオンライン化が可能です。
- 営業活動や会議
- 商品やサービスの販売
- 書類のやり取り
営業活動や会議などはWeb会議ツールやビジネスチャットで行え、商品やサービスの販売はECサイトの活用で対面でなくても行えます。
また、書類をオンラインデータでやり取りすれば紙媒体でなくても問題ありません。
オンライン化できる業務は積極的に取り入れていくことがニューノーマル時代に求められている働き方です。
ニューノーマルな働き方の課題
時代の変化と共に働き方も変化していかなければなりません。しかし、そう簡単に変化できるものではなく、課題もあります。
ニューノーマルな働き方を取り入れることで生じる課題についてご紹介します。
コミュニケーション不足
テレワークを導入することで、必然的に対面でのコミュニケーションが減ります。
対面でのコミュニケーションが減り、情報共有がうまくいかず業務に支障が出てしまう人も少なくありません。
また、気軽に相談したり、雑談したりする機会も減るため、ストレスが溜まりやすくなります。特に単身世帯の場合、テレワークを行っていると誰とも会話せずに1日が終わることもあります。コミュニケーション不足に陥ってしまうのは、テレワークの弊害とも言えるでしょう。
これにより社内エンゲージメントが低下し、従業員のモチベーションや生産性までも低下させる恐れがあります。
モチベーション低下
上述したコミュニケーション不足の理由以外にも、モチベーション低下となる要因があります。
例えば、自宅でずっと仕事をしていることによる気持ちの切り替えです。
テレワーク時は労働時間とプライベート時間の区別が難しいため、気持ちのオン・オフが切り替えにくくなります。
気持ちが仕事モードに切り替わらないまま仕事に取り掛かるとモチベーション低下に繋がり、作業効率も低下してしまうため、テレワーク時の従業員には自己管理、自己マネジメント能力が求められます。
情報セキュリティの脅威
テレワークに限らず、すべての業務をオンライン化することによって、企業はセキュリティリスクを背負うことになります。
パソコンに対するウイルス攻撃や、不正アクセス、またパソコン自体の紛失で、情報漏えいが起きる可能性があります。
このようなセキュリティに関する懸念から、ニューノーマルな働き方に抵抗感がある企業もいます。
しかし適切な対策を行うことでセキュリティに関する課題は解決できます。
例えばウイルス対策用の備品やセキュリティソフトを導入したり、従業員に対してセキュリティに関する教育を行ったりといった対応が挙げられます。
ニューノーマル時代に企業がすべきこと
ここからはニューノーマルな働き方を実現するために、企業が何をすべきなのかをご紹介します。
ニューノーマルな働き方の課題を解決する方法としても有効なため、ぜひご参考にしていただければ幸いです。
デジタルトランスフォーメーション(DX)
デジタルトランスフォーメーション(DX)とは、デジタル技術を浸透させることで、人々の生活をあらゆる面で良い方向に変革させるという概念のことです。
ニューノーマル時代において企業にはデジタルトランスフォーメーションへの対応が求められています。
これまでも様々な企業でIT化が進められてきましたが、紙で保管していた契約書をデータにして社内で一括管理することや、郵送でのやり取りをメールで送信するなどのIT化は、デジタルフォーメーションとは言えません。
RPA(業務プロセスや作業を自動化するツール)やAIなどのより高度なデジタルを活用して変革することがデジタルトランスフォーメーションにあたります。
デジタルトランスフォーメーションを導入することは、BCP(事業継続計画)対策にも有効です。
近年では様々なデジタルツールやシステムが開発されており、経理業務や労務業務の自動化も可能となっています。
これにより有事の際に機能不全に陥るリスクが低減されるため、デジタルトランスフォーメーションはBCP対策に非常に有効な手立てだと言われています。
採用、研修、評価の見直し
ニューノーマルな働き方を実現するためには、採用から研修、人事評価までの一連のフローを見直す必要があります。
従来のフローのままニューノーマルな働き方を取り入れても、必ずどこかでほころびが生じるでしょう。
例えば、業務のプロセスや勤務態度を評価の軸にしていた従来の人事評価をそのまま流用しても、テレワークでは従業員の勤務態度が見えないため、評価できません。
この課題を解決する方法としては、成果重視の評価制度でも良いですが、部下が上司との対話を通じて組織の方向性に準じた目標を設定し、目標に基づいて個人の評価を行う目標管理制度(MBO:Management By Objective)の導入がおすすめです。
成果重視の評価制度の場合、事務や総務労務といった成果を数値化できない業務は評価しにくく、従業員にとっても何を基準に仕事をすればいいか分からずモチベーションが低下してしまう可能性があります。
しかし、目標管理制度の場合は、数値だけでなく従業員がどのような姿勢で業務にあたっていたのか、目標のためにどういう行動をとっていたのかなどのプロセスも評価できます。
また、採用や研修もオンラインで行ったり、ツールやシステムを利用したりと、ニューノーマルな働き方に沿った新しい手法を取り入れていくことが企業に求められます。
そのために、企業はマニュアル整備や体制づくりを今のうちから行っておくべきでしょう。
職場環境の整備
採用、研修、評価の見直しだけでなく、他にも整備すべきことがあります。
テレワークを導入するのであれば、パソコンをはじめとする情報通信機器の支給は必須でしょう。他にも、従業員の就業状況の把握のために勤怠管理ツールの導入や、社内文書や契約書を共有するためのオンライストレージなどのITツールの導入が求められます。
また、コロナ禍においては感染対策のために複数の場所にワークスペースやサテライトオフィスを構えてオフィスを分散化させたり、オフィス内にも飛沫防止のためのパーテーションを設置したりといった対応が必要です。
オフィスの機能を残しつつ、従業員が働く場所を自由に選択し、働ける環境を整えることが企業の役目と言えるでしょう。
テレワーク可能な業務の切り分け
接客販売や医療介護職などはテレワーク不可能な職種だと言われています。
しかし、業務単位の小さなくくりで見ていくとテレワークが可能な場合もあります。
例えば、資料作成や企画、調査などは出社せずとも可能な業務です。
このようにテレワークは難しいと言われていた職種であっても、業務を細かく切り分けていくことでテレワークが可能であると気付けます。
まずはテレワークを導入できる業務とできない業務とで棚卸しを行い、選定してみると良いでしょう。
ニューノーマル時代の企業事例
ニューノーマルな働き方を推進している企業事例を6つご紹介します。
株式会社東芝
日本の大手電機メーカーである東芝グループは、2020年7月からニューノーマルな働き方に取り組んでいます。
具体的には在宅勤務制度の導入やサテライトオフィスの設置、また目標退社時間の設定、メールの送信ルール・会議開催ルールを策定し、限られた時間の中で効率的に成果を出す意識をしているとのことです。
その上、テレワークのリスクを見える化するツールや情報共有ツールなどのニューノーマルな働き方をサポートするサービスも数多く提供しています。
株式会社日立製作所
日本を代表する電機メーカーである日立製作所では、ニューノーマルの実現に向け、幅広い職務で在宅勤務活用を標準とした新しい働き方を推進しています。
例えば、中長期的に在宅勤務を継続するための主な施策として、ジョブディスクリプション(職務の見える化)の導入や、リモート環境で業務可能なIT環境の整備などが挙げられます。
幅広い職務で在宅勤務を導入するだけでなく、このような施策を実行をすることで生産性向上が期待できるでしょう。
ソフトバンク株式会社
電気通信大手のソフトバンクは、ニューノーマル時代に求められる製品を提供しています。
例えば、AIが人間の代わりに面接のヒアリングを実施する対話型AI面接サービスは、まさしくニューノーマル時代に相応しいデジタルトランスフォーメーションと言えるでしょう。
また、このような製品を提供するだけでなく、ソフトバンクは「ニューノーマル支援特別一時金」として全社員を対象に一時金20万円を支給しています。
スマホ決済サービス「PayPay」を通じて10万円相当のPayPay残高を支給し、別途現金10万円が支給されました。
カルビー株式会社
日本を代表する食品メーカーのカルビーは、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえたニューノーマルの働き方「Calbee New Workstyle」を、2020年7月に導入しています。
「Calbee New Workstyle」の内容は、以下の3つです。
- モバイルワークの標準化とフルフレックス導入
- 単身赴任の解除
- 通勤定期券代の支給停止とモバイルワーク手当の支給
オフィス勤務者はモバイルワークを原則としています。また、フレックス勤務のコアタイムを廃止し、より柔軟な働き方を推進しているとのことです。
株式会社ミクシィ
国内初のソーシャル・ネットワーキング・サービスを展開したミクシィは、リモートワークとオフィスワークを融合した「マーブルワークスタイル」の試験運用を2020年7月から開始しています。
「マーブルワークスタイル」の内容は、「出社を基本に、リモートワークは週3日まで」と、「フレックス制度のコアタイムを短縮(10~15時→12~15時)」の2つです。
また、ニューノーマル時代のおうち時間を演出するために、生鮮食品中心のおつかいサービスアプリ「mikuma」を提供しており、ニューノーマルを意識した取り組みを行っています。
富士通株式会社
日本有数の老舗総合エレクトロニクスメーカーである富士通は、新しい働き方として「Work Life Shift」を推進しています。
原則として国内グループ社員の勤務形態はテレワーク勤務を基本とし、業務の内容や目的、ライフスタイルに応じて時間や場所をフレキシブルに活用できる取り組みを行っています。
具体的施策は、以下の内容です。
- コアタイムの撤廃
- 通勤定期券の廃止
- 単身赴任の解消
他にもオフィスのあり方を見直したり、ジョブ型人事制度の導入をしたりとニューノーマル時代をリードしている企業と言えるでしょう。
さいごに
今回はニューノーマルな働き方についてご紹介してきました。
企業が率先してニューノーマルな働き方を推進していく必要がありますが、従業員側もニューノーマルな働き方に適応できなければ意味がありません。
テレワークが基本となった場合、遠隔でも問題なく情報共有できるスキルや、ニューノーマルな働き方のために導入したツールやシステムを使いこなせるITスキルが必要です。
ニューノーマルな働き方を実現していくためには、一人ひとりがニューノーマルな働き方について考え、自身のスキルもアップデートしていく必要があるのではないでしょうか。
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