最近では、在宅勤務・テレワークを導入する企業も増えてきました。
しかし、在宅勤務には労災が認定されるのか、またどのような時に労災保険が適用されるのかを、しっかり理解してない方も多いのではないでしょうか。
この記事では、在宅勤務のリスクから在宅勤務時の労災が適用される条件、労災保険の申請方法まで詳しくご紹介します。
テレワーク(リモートワーク)とは
テレワーク(リモートワーク)とは、「tele = 離れた所」と「work = 働く」の2つの言葉を組み合わせた造語で、インターネットを利用して場所や時間にとらわれないで仕事をする働き方のことです。
リモートワークもテレワークと同義です。
テレワークの中にも分類があり、「雇用型テレワーク」「自営型テレワーク」の2つに区分されています。
リモートワークについて詳しく知りたい方は、「働き方改革で話題のリモートワークに詳しくなろう!!」の記事をご参照ください。
在宅勤務とは
在宅勤務とは、企業に雇用されながら自宅で仕事をする働き方です。
在宅勤務もテレワークに含まれる勤務形態の1つで、「雇用型テレワーク」に該当します。
働き方改革や新型コロナウイルス(COVID-19)の影響もあり、最近では在宅勤務を導入する企業が増えてきました。
今後、ますます在宅勤務を導入する企業が増えると予想されます。
在宅勤務について詳しく知りたい方は、「ワークスタイルの一つでもある在宅勤務とは?リモートワーク、在宅ワークとの違いは?」の記事をご参照ください。
在宅ワークと在宅勤務の違い
企業とは雇用関係を持たずにパソコンなどのITツールを利用して、自宅で仕事をする働き方のことを言います。
しばしば在宅勤務と同一の意味で捉えられがちですが、在宅ワークは企業と雇用関係を持たずに個人事業主として働く点が大きな違いとなっています。しかし雇用・非雇用問わず、自宅に限らないで好きな場所で働くことを「在宅ワーク」と呼ぶ場合もあります。
在宅ワークについて詳しく知りたい方は、「在宅ワークとは?今さら聞けない在宅ワークの意味や始め方」の記事を参照ください。
在宅勤務(テレワーク)に労災は適用されるの?
「在宅勤務の場合でも、労災は適用されるのか?」と心配になっている方もいることでしょう。結論から言いますと、在宅勤務でも適用されるので安心してください。
ここでは、在宅勤務をする時にどのような場合であれば労災が適用されるのか、詳しくご紹介します。
労災とは何か
労災とは「労働災害」のことを指し、仕事中や通勤中に発生した怪我や病気のことを言います。
労災が起きた際、労働者が必ず加入している「労働災害保険(労災保険)」によって、保険給付が行われます。この制度は従業員が怪我や病気などで働けない時に、従業員とその家族の生活を守るためにある補償制度です。
しかし、労働時間中や通勤中に起きた全ての怪我や病気が対象になるわけではなく、適用されるためには要件を満たす必要があります。
労働災害には「業務災害」と「通勤災害」の2種類があり、それぞれで要件が異なります。
労災の要件
労災における2種類の災害分類について解説します。
業務災害
業務災害とは、労働者が業務中に受けた怪我や病気、障害、死亡などのことをいいます。
業務災害だと認定されるためには、「労働者が労働契約に基づいて事業主の支配下にあり、業務が原因となって発生した労働災害であるかどうか」が基準になります。
そのため、たとえ労働時間内であっても、業務に関係ない私的または業務以外の行為が原因だと該当しません。
この私的行為とは、「会社とは全く関係ない行為」のことを指します。
例えば、仕事の休憩時間に会社の外で怪我をしても、業務と直接関係ないため労災の対象にはなりません。
通勤災害
通勤災害とは、労働者が通勤・退勤途中に発生した怪我や病気、障害、死亡などのことをいいます。
通勤とされるためには、その移動が業務に就くため、または業務を終えたことにより行われるものである必要があります。
この場合の「通勤」とは、以下で挙げている移動を「合理的な経路および方法」により行うこととしています。
- 住居と就業の場所との間の往復
- 就業の場所から他の就業の場所への移動
- 住居と就業の場所との間の往復に先行し、または後続する住居間の移動
3に関しては、単身赴任者が家族が住む帰省先住居に帰る移動間などが該当します。
また、ここでの「合理的な経路および方法」とは、通勤のために通常利用する経路であれば、複数あったとしてもそれらの経路はいずれも合理的な経路とされます。
交通事情により迂回した場合や、マイカー通勤者が貸切りの車庫を経由した場合など、通勤のためにやむを得ずとる経路も合理的な経路となりますが、特段の合理的な理由もなく、著しい遠回りとなる経路は合理的な経路とはなりません。
上記で説明した要件を満たしていても、通勤に該当しないケースもあります。
それは、「業務の性質を有する移動」です。
例えば、事業主の提供する専用交通機関を利用する出退勤や、緊急用務のため休日に呼出しを受けて緊急出動する場合などで発生した災害に関しては、通勤災害ではなく業務災害に該当します。
また、通勤の途中で就業や通勤と関係ない目的で合理的な経路をそれる「逸脱」行為や、通勤の経路上で通勤と関係ない行いをする「中断」行為があった場合も、通勤として認められません。
ただし例外もあり、日常生活上必要な行為で、厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により最小限度の範囲で行う中断・逸脱の場合、その後に合理的な経路に復した後は再び通勤となります。
厚生労働省令で定める逸脱・中断の例外となる行為は以下の通りです。
- 日用品の購入その他これに準ずる行為
- 職業訓練、学校教育法第1条に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
- 選挙権の行使その他これに準ずる行為
- 病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為
通勤の途中で公衆トイレを利用したり、経路上のお店でジュースや煙草などを購入するささいな行為については認められます。
在宅勤務(テレワーク)は労災の対象
在宅勤務を行う労働者も会社で働く人と同様に、労働基準法に基づいて労災の対象になります。
たとえ在宅勤務であっても、業務上の災害として労災保険給付の対象となりますが、会社で働く場合と同様にきちんと要件を満たしている必要があります。
ただし、前述したように、私的行為は含みませんのでその点は注意しましょう。
労災の認定基準
労災が認定されるにあたって、基準となる要素が2つあります。
それは「業務遂行性」と「業務起因性」です。ここでは、労災の認定基準について詳しく説明していきます。
業務遂行性
業務遂行性とは、「仕事中に発生したケガ・病気であるかどうか」を指します。
被災労働者が労働契約に基づいて、事業主の支配下にあったかがポイントです。
労働者が業務にあたってる場合だけでなく、休憩時間中であっても事業場内で行動していれば、事業主の管轄内にあると認められます。
業務起因性
業務起因性とは、「仕事が怪我・病気の原因になったかどうか」を指します。例えば、過労死や心疾患などの病気と業務の関連性が挙げられます。
労災が適用された在宅勤務(テレワーク)の事例
ここでは、実際に在宅勤務で労災が適用された事例をご紹介します。
1つ目は、在宅勤務の所定労働時間内に作業を中断してトイレに行った後、トイレから戻って着席する際に転倒して怪我をしたケースです。
このケースの場合、トイレに行くのは業務行為に付随する行為なので私的行為ではないと判断され、労災として認められました。
2つ目は、在宅勤務の所定労働時間内に仕事に関する資料を取りに2階に上がって階段を降りる際に、足を踏み外して腰を打撲してしまったケースです。
このケースの場合、業務時間内であり、かつ業務との因果関係もあることから、労災が適用されました。
労災が適用されなかった在宅勤務(テレワーク)の事例
一方で、労災が適用されないケースもあります。
例えば、以下のような場合は労災が適用されません。
1つ目は、在宅勤務中の所定労働時間内に、業務とは関係ない買い物に出かけて怪我をした場合です。
このケースの場合、業務時間内ではあるものの、労災が適用される可能性は極めて低いでしょう。
勤務中の休憩時間に外出した場合でも、会社の施設から離れた私的行為と判断されるため、残念ながら労災の対象にはなりません。
2つ目は、在宅勤務中の所定労働時間外の労働中に、事故に遭った場合です。
このケースでは業務時間外であり、業務とは関係ない私的行為が原因で起きた怪我だと考えられるため、労災とは認めらない可能性が高いです。
在宅勤務(テレワーク)の長期化で生まれる3つの労働リスク
新型コロナウイルスの影響もあり、急遽在宅勤務・テレワークに踏み切った企業も多くあることでしょう。
今までは月に数回程度しか実施していなかった企業や、全く実施したことがない企業で働く人の場合、実際にどのような労働リスクがあるのか分からないかと思います。
ここでは、在宅勤務・テレワークが長期化することで生まれる3つの労働リスクをご紹介します。
在宅勤務(テレワーク)の事故リスク
まず1つ目は、在宅勤務・テレワークの事故リスクです。
在宅勤務中に不注意で怪我をしてしまうことは、誰にでもあり得ます。
例えば、以下は実際に過去に起きた事故で、労災に認定されました。
- 高い棚から物を取ろうとしたら手が滑って取れずに怪我をした
- 椅子に座ろうとしたら転倒して怪我をした
ただ、テレワークだからと言って、何でも補償されるわけではありません。
会社は社員をしっかり管理する必要があり、それができていないと補償を受けられない可能性もあります。
自身でもどんな事故のケースなら補償されるのか確認しておきましょう。
在宅勤務(テレワーク)のストレスリスク
2つ目に、在宅勤務・テレワークのストレスリスクです。
テレワークは自由度が増すので一見メリットばかりに見えますが、ストレスに感じることも多々あります。
例えば、以下のようなストレスリスクが挙げられます。
- 普段の生活でのストレスが仕事にも影響を及ぼす
- コミュニケーションが円滑にできないことによるミスが増える
- 成果を出さなければならないというプレッシャー
そのため、企業がテレワークを導入する場合、従業員とのコミュニケーションを意識的に増やしたり、定期的にストレスチェックをしたりと、対策を取る必要があります。
在宅勤務(テレワーク)での病気リスク
3つ目は、在宅勤務・テレワークにおける病気リスクです。自宅にいるからといって、病気リスクが0とは言い切れません。
例えば、インフルエンザや新型コロナウイルスなどの感染症の場合、生活に必要な物を買うために外に出ることもあれば、自分が外に出なくても家族の誰かが感染して、それが自分にも感染する可能性があります。
在宅勤務の場合、業務に付随した行為での感染なのか、それとも私的なのか、感染経路の特定が難しいため、現状では労災として認定されない可能性が高いです。
ただし、感染経路が業務中であったことが確認できれば、労災と認められる可能性はあります。
これは感染症以外でも当てはまることで、在宅勤務中に病気を発症した場合、業務が原因であれば労災と認定されます。
私的な行為で起きた災害に関しては、労災とは認められないので注意しましょう。
労災保険の申請方法
労災保険の申請は、原則、怪我や病気をした本人か家族が会社を通じて手続きを行います。
一般的に従業員の負担を避けるため、会社が手続きを代行します。
大まかな申請の手順は以下のようになっています。
- 会社への報告
業務中あるいは通勤中に怪我が発生した場合、まず会社に報告をします。
- 診察
会社から指定された労災保険指定医療機関または最寄りの取り扱い病院で診察を受けましょう。
労災保険指定医療機関とは、都道府県労働局長が指定する病院・診療所のことで、ここで治療を受ければ医療費は一切かからないようになっています。
医療費を自己負担した場合でも、後日請求手続きを行えば負担した医療費は返金されます。
- 請求書作成
基本的に手続きは会社が行ってくれます。しかし、万一会社が請求手続きを行ってくれない場合には、自身で労働基準監督署に労災保険給付の請求書を提出しなくてはなりません。
請求書は労働基準監督署に取りに行くか、厚生労働省の公式ホームページからダウンロードをして入手しましょう。
この請求書には勤務先からの署名が必要になっているので、必ず勤務先から署名をしてもらいましょう。
万一勤務先が署名をしてくれない場合には、勤務先が署名をしない理由を示した「署名拒否理由書」を準備して労働基準監督署に提出するか、労働基準監督署に相談をしましょう。
- 請求書の提出
完成した請求書と必要な添付書類を労働基準監督署に提出します。その後、労働基準監督署の調査によって、労働災害が適用されるかどうかを判断されます。
なお、労災保険の申請は、一定期間を過ぎるとそれ以降請求できなくなってしまうので、ご注意ください。
具体的には、「療養補償給付」、「休業補償給付」、「葬祭給付」、「介護補償給付」、「二次健康診断等給付」は手続き期限が2年、「障害補償給付」、「遺族補償給付」は手続き期限が5年となっています。
在宅勤務(テレワーク)における労災認定に関する留意点
私的時間内に起きた事故なのか、業務が原因で起きた事故から来る怪我や病気なのか、線引きが難しい方もいるでしょう。
ここでは、労災認定に関する留意点を3つご紹介します。
労働時間と私的時間の区別
在宅勤務の際は、業務時間と私的時間を明確に分けるようにしましょう。
時間を明確に分けられると、「業務遂行性」に関しては説明ができるので、説得力が増します。
ただ、「事業場外みなし労働時間制」を導入している場合は、業務時間と私的時間の区別をはっきりさせるのが難しいところではあります。
「事業場外みなし労働時間制」とは、会社以外の場所で仕事をする場合に、所定の時間労働したとみなす制度のことです。
この制度は使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間の算定が困難な際に導入できるものでもあるため、どこまでが業務時間なのか私的時間なのかが分かりづらいというデメリットがあります。
こういった場合でも、なるべく労働者自身で業務時間と私的時間を区分したり、勤務内容を記録したりと、自身で徹底していくことが大事です。
就業時間の記録
在宅勤務時に災害が発生した場合には、労働者は事業主の直接的な支配・管理化にないので、災害が発生したときに業務をしていたのかどうか安易に判断できません。
「労災の要件」でも記述した通り、労災だと認められるには「事業主の支配・管理下」にあったという事実が基準となります。
これは実際の就労記録を踏まえて判断されます。
そのため業務中に災害が発生した証拠を提示しなければならず、証拠として自宅で作業していた記録が重要になります。
例えば以下のものが就業時間の記録に有効です。
- 会社や取引先とのメールの送受信の記録
- 業務報告書の提出・保管
- PCのログイン・ログオフ時間の記録
在宅勤務時の定時連絡のルール作りや作業を記録するツールを導入して、総合的に管理体制を整備していく必要があります。
就業場所の特定
就業場所を特定しておくことで、「業務起因性」が認められやすくなり、労災の対象にもなりやすくなります。
在宅勤務ではカフェや自宅以外での勤務を原則禁止にし、ルールの取り決めを事前にやっておくことが大切です。
ただし、顧客から呼び出されて急遽外出しなければならないケースもあるので、事前に上司や人事と詳しい話をしておくのが良いでしょう。
在宅勤務(テレワーク)におけるケガや健康被害の予防
在宅勤務では労災が適用できるとは言え、怪我を未然に防ぐことに越したことはありません。事業主は在宅勤務にしている従業員の作業環境や作業時間について、オフィス勤務時以上に気を配る必要があります。
在宅勤務時の環境管理で参考になるのが、厚生労働省の「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」(平成元年7月12日基発0712第3号)です。このガイドラインには、在宅勤務時の適切な作業環境管理として、PC、机などの望ましい機能や大きさ、適切な部屋の照明やディスプレイ画面の明るさなどが細かく記載されているガイドラインです。
また、在宅勤務時の作業時間に関しても、連続作業時間が1時間を超えないようにすることや、連続作業時間の間に10~15分の休憩を挟むことが心身の負荷を減らす方法として効果的であることが示されています。
しかし、こうしたルールを作った上でも、在宅勤務では社員が働きすぎるという問題が生じやすいです。
厚生労働省の「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」によると、在宅勤務時の過重労働を防ぐ方法としては以下の4つの方法が有効であると示唆しています。
- メール送付の抑制
- システムのアクセス制限
- テレワークを行う際の時間外・休日・深夜労働の原則禁止等
- 長時間労働等を行う労働者への注意喚起
事業主は安全な在宅勤務制度を構築するために、こうしたガイドラインを参考にしながら心身の負荷をかけない環境・ルールづくりを進めていきましょう。
さいごに
在宅勤務でも、きちんと条件を満たせば労災が適用されます。
今後は、会社外で働く人も増えてきますので、各々がしっかり労災の要件や申請方法などを理解しておくといざという時に役立つでしょう。
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